予行演習

わたくし

前日 ー理想ー

 明日はキョウコちゃんとの卒業記念ハイキングだ!

 中学校を卒業して、ボクとキョウコちゃんは別々の進路へと進むんだ。

 ボクは都会の全寮制の男子校に、キョウコちゃんは地元の進学校へ通うので、この春休みが終わればしばらくは会えなくなるのだ。

 これまで何度も彼女とデートをしてきたが、キスどころか手さえも握った事が無かった。

 何としてでも二人の思い出に残るようなハイキングにしなければ……


 目的地は隣町の甘木山あまきやまだ。頂上や途中の展望台からの景色がとても良いそうだ。

 登山道の坂道をボクがキョウコちゃんの手をさり気無く握り、彼女をエスコートする。その男らしい仕草に彼女はボクに惚れなおすだろう!

 展望台で休憩の時、ボクは魔法瓶の水筒に入った冷たい麦茶を彼女に進める。水筒のカップは一つだけなので、初めに彼女へ麦茶を入れたカップを差し出す。帰って来たカップに麦茶を入れ、ボクが飲む。

 間接キッスの完成だ!


 頂上でのお弁当タイム、互いのおかずを交換しあう。

 上手く行けば彼女が箸でおかずを摘み、

「あ~んして」

 ボクが口を開けて……

「あ~ん」

 パクリ

「美味しい~!」

 なんて事も!


 肝心なのは、最後の時だ。ボクは彼女を家まで送る。

 玄関先で別れの挨拶をする。

「遠くに離れてもボクの事を忘れないでね」

「月に一度は手紙を書くから……」

「夏休みになったら、またデートしようね!」

 彼女は、

「うん、わたし待ってる……」

「わたしも手紙を書くからね」

「浮気しちゃダメだよ!」

 なんて、答えるハズだ。


 そしてボクは、

「ちょっと、目をつぶってくれる」

 と言う。

 彼女は、

「いいわ」

 と目をつぶる。

 ボクは彼女の唇に、そっとキスをする……

 驚く彼女にボクは、

「次に会うためのオマジナイだよ」

 と言ってカッコ良く去っていく……


 これで完璧だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る