第二章 春の訪れ、君はこの道を往く
第五話 この広い世界に-前編-
A.D.242年--
ティムが首都へと旅立ち7年が過ぎていた。
ディン曰く、月に一度程度は手紙が届いているが、依然としてオルテガの行方は掴めて居なかった。
この7年で変わった事と言えば、240年程続いていた旧十五国統一政府が分裂し、南北へと分かれたこと。また、この分裂により国境警備局への人員増強が行われ、人手不足となった首都圏近衛警備局はティムを再度長官として迎え入れていた。
ダイム達はというと、ジャピニオン国立魔導師基礎学舎を卒業後、エスカレーター式で国立魔導師高等学舎で学んでいた。
---
--
---(
高等学舎の卒業試験では、「デミ・エクスプロージョン・フレイム」の実用演習が行われる。
ダイムが放ったそれは、木で組み立てた木偶を一瞬にして焼き尽くした。
(はい、23番--ダイム・リンデン--合格です。それでは--次-。)
この頃には古の魔法を疑似的に使役する事が出来る魔導具『アリア・バングル』が開発されていた。
魔導師が装着することで古代のジャピニオンの民が用いた魔法を使用する事が出来るのだが、あくまでも疑似的なものであり
だが、程遠いとはいえ使用者の魔力次第では一つの街を一夜にして焼き尽くすほどの性能は持ち合わせている。
ただし、魔力の基礎訓練を修得していない者が使用すると、一撃で魔力が枯渇してしまう。そして学内では、卒業試験で一人前の魔導師として適切かを試す指標として使われた。
--くっ。一撃で魔力がかなり食われてる---。
ダイムは魔法の発動に成功したが、中には魔力総量が足りずに発動と共に意識を失う受験生もいた。
(--トトは---いた。)
ダイムは自分の試験が終わると、トトの姿を目で追う。
トトとはこの7年間、お互いに切磋琢磨し合い、学内での成績自体は五分五分であった。
しかし、トトからは魔力の質で差を付けられていた。
(
トトは魔力をさほど込めていない様に見える。しかし、トトが放った炎魔法は、木偶を燃やすより先に破裂させ、一瞬のうちに粉々に粉砕した。
(さすが--トト。最小限の魔力消費にも関わらず--より効果的な性質変化か。)
(今回の卒業試験受験者29名のうち、合格者23名。残り6名は1週間後に追試を受け、それに合格しない限り翌年に持ち越しである。卒業生諸君、おめでとう。)
試験官から合格者の発表が行われ、ダイムとトトは無事に魔導師高等学舎を卒業した。
(なぁ、トト。俺さ--首都に行こうと思う。)
帰りの道中、ダイムはトトにそう伝える。
(--おじさんを探すのかい?)
トトは、ダイムがそう切り出すことを分かっていたようだった。
(あぁ--。俺、何故父さんが西へ向かったのかを知りたい。それに--ディンから教えてもらったんだ。ティム先生が首都で知った情報を。)
(え?)
(この南北分裂もこれから良くないことが起きる予兆かもしれない。そして、父さんは何か掴んでいたのかも知れないって、そう手紙には書いていたらしいんだ--。それに、首都圏近衛警備局は人手不足らしいから、高等学舎卒者は入隊し易いらしい。)
(---そっか。君がそう決めたのなら、僕はそれでいいと思う。)
(--トト、お前はどうする?一緒に来ないか?もしかしたら、お前の家族や知り合いにも会えるかもしれない。)
(--首都、か。僕は首都から来たのか--。でも、君と僕が二人とも出て行ってしまったら---メイおばさんが一人になっちゃうし---。)
トトはダイムの提案に即答はせずに、考え込んでいるようだ。
(まぁ、結論は急が---)
その時だった。風に混じった焼けた油と焦げた臭いが鼻を突く。
(---ダイム!!あれ!)
トトが指す方角を見遣る。すると、漆黒の闇の中で明々と橙色の光の柱が立ち上っているのが見える。それは、ダイム達の集落の方角だった。
(トト!もっとスピード上げられるか?!急げ---!!)
トトはグリップを捻ると、バギーが加速する。
---!!
集落まであと少し、という所でトトがブレーキを握りバギーを停車させる。
(--すぐそこなのに!どうした?!)
(ダイム、あれを---!)
(ロイドおじさん!?)
血相を変えこちらに向かって来る人影に気付くと、ダイムはバギーを飛び降りそちらへと駆け出す。
(--おじさん、何があったの?!)
(ダイム--それにトトか。)
幼い頃から父親代わりに二人を可愛がってくれていた、隣人のロイドだった。
(ダイム、トト、逃げろ。野盗だ--。野盗に襲われた---。)
(おじさん、母さんは?!)
(分からない。俺も逃げるのに必死で---。)
(--くっ、トト!!おじさんを頼む!俺は母さんの所へ---!!)
(ダイム、行くな---!)
ロイドの制止を無視し、ダイムはトトからバギーを奪うと集落へと走り出す。
近付くにつれ、熱風が身体にまとわりつき、火の粉が上がっているのが見える。
(母さん--無事でいてくれ!!)
---
--
集落に近付く程、人々の絶望や混沌とした念が渦巻いていた。
集落裏手の巨大岩に身を潜め、様子を窺う。集落は銃火器で武装した野盗グループの手により手当り次第家を燃やされていた。
ダイムは身を潜めながら、自身の家へと近付く。
--母さん、どこだ?!
野盗が魔導師ではないと確証が得られない。ダイムは自身の思念を辿られ無いように『トランスミッション・ウェア』を外すと、母の思念を探っていた。
すると、集落の中心にある広場で何か強い光が点滅している。それを確認した野盗のメンバー達は光の元へと集まり始めた。
--アイツら、魔導師じゃないのか??
その様子を見ながら、魔導師であれば光を使ったサインで合図は出さない。異国からの流れの仕業だと判断したダイムは、急いで『トランスミッション・ウェア』と卒業式で受領した『アリア・バングル』を装備した。
---魔力が尽きてもいい。アイツらを一掃しないと---。
『アリア・バングル』に念を込めたその時---。
(---ダイム、トト--逃げて--)
薄らと母の念を感じた。
改めて広場を見ると、野盗の一人に引き摺られて来る人物が確認できた。
--メイだった。
(--母さん!!!!!!)
ダイムは、彼女の姿を確認すると一心不乱に走り出していた。
あと10m。
あと5m。
その時、突如現れたダイムの姿に気を取られ、野盗達に隙が生まれる。その一瞬、野盗の手からメイは逃げ出す。
ダイムにはその光景がスローに見えていた。
何人かがこちらに気付き銃を構えながら向かってくる。
それらに向かい、ダイムは「デミ・エクスプロージョン・フレイム」を放つ。
先程まで母を捕縛していた一人が、逃げ出す母の背に向け銃を構える。
--間に合え---っっっ!!
二発目の「デミ・エクスプロージョン・フレイム」を放ったと同時に、銃から発せられた弾が母の体を貫通していた。
---母さんッッッ!!!
一連の騒動に気付き、残っていた野盗達がダイムの姿を確認し、一斉に銃を構えていた。
ダイムは既に魔力が尽き、為す術なく立ち尽くす。
--くっ、トトすまない--!!!お前は生きろ---!!
ダイムは死を覚悟し、目を閉じた。
その刹那---。
(---
ダイムの脳裏にトトの念が響く。
ほんの一瞬の出来事だった。
辺りは一瞬にして白い世界へと変貌した。
天から射し込む光と共に、氷の女神・エッダが降り立つ。
彼女の目から一粒の涙が流れ落ちると、その涙は無数の氷の刃へと形を変え、野盗達の身体を貫き一掃する。
天に帰る瞬間、彼女はふっと息を吹く。
家々に残る炎は一瞬にして凍てつき消え去っていた。
---
--
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます