第三話 白い世界
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ダイムとトトが
一年生の授業は魔導に関する基礎知識の学習や魔導具使用の基礎演習といった魔導師の基礎となる学習が主である。
ダイムは一日の授業の中でも、『体育』の時間が一番好きである。生まれながらに恵まれた体格や足の速さにより、どんな競技でも彼が一番になっていたからだ。
また、体力と知力の向上が魔力の向上に繋がることは、昨今の研究により判明していた。したがって、初等教育から座学だけではなく、積極的に『体育』が取り入れられていたのだ。
(はい、今日の体育の授業は---「徒手空手」です。)
ティムは生徒達に「徒手空手」について、説明をする。「徒手空手」は古代のジャピニオンや周辺諸国で盛んに行われていた伝統武術らしい。
また、武道と呼ばれていた古の武術は、精神も鍛えられると伝えられており、ティムは積極的に古の武術を授業に取り入れていた。
(それでは、皆さん。防具を着用してくださいね---。ちなみに、この防具も魔導具の一種ですので---効果は実際に使用して体感してくださいね。)
この八ヶ月の間、体育の授業では度々「古代武術」が取り入れられていた。
先月までは四ヶ月程「剣道」を授業で教わった。その時も刀の柄型と防具型の「魔導具」を使用した。
先立って行われた剣道の授業で
剣道の授業の最後に行われた勝ち抜き戦で、決勝戦でトトとの対戦になった。その長期決戦の先に参ったを出したのはダイムだった。
トトが使用する魔導具から発せられる魔力が、他の生徒達とは極めて異質であったのだ。魔力で精製した刀は変幻自在に形を変え、攻防一体の武器となり、彼のフィジカルや技術面の拙さを見事にカバーしていた。
(次こそは--トトには負けないぞ!)
密かに勝ち負けにこだわるダイムだった。
胴回りとヘッドギア型、そしてグローブ型の「魔導具」を装着すると、魔力が通っていない攻撃は無効化される。
更に、攻撃力や機動力は魔力に比例し向上することが体感的に分かった。
トトはふと、疑問に感じていた。
何故、基礎とはいえ古武術を習い、実戦的な訓練のようなこと行なうのだろう---と。
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日を追う毎に一日が短くなってきており、学校を出る頃には太陽が西の山へと半分以上隠れている。
バギーに乗っていると、横をすり抜けていく風が二人の耳を鈍い刃の如く
(ねぇ、ダイム。)
トトは運転中のダイムの横顔を見ながら送念する。
(うん?)
ダイムは前を見据えたまま返事をした。
(あのさ、何で学校で勉強以外に戦闘訓練みたいな事、やってるんだろう?)
その質問に、ダイムは即答せずに少しの間思慮を巡らせているようだ。
(そうだね--。確かに『魔法』とかそういうの、今どきじゃないって感じがするし--。こんなに色々な機械がある訳だしね---。)
(ちょっと気になって女の子のクラスで聞いたんだけど、女の子たちは戦闘向けの魔導具ではなくて、治療とか封印関係の演習ばかりやってるって。)
トトは何か思考に引っかかっているらしく、それからずっと考え込んでいた。
ジャピニオンにおいても、千年前の大戦以降、敵国だった「ガルキウス」より機工技術者とそれに伴い蒸気機関等も流入していた。
更に付け加えると、魔導具自体が機工技術の応用というべき産物でもある。古来より「ガルキウス」では豊富に石炭が採掘されていたらしく、蒸気機関の発展に繋がっていた。
また、各国間の輸出入が容易くなった現在、ジャピニオンでも石炭やその副産物を動力とする機械の使用が一般的になっており、「魔導具」の使用は昔に比べると格段に減っているのである。
(僕たちがやっている事って、魔力の増強--?)
ふと、トトが薄らと考えていることが、ダイムの脳へと伝わってきた。
--トト。何をそんなに考え込んでるんだろう?
ダイムは思考を巡らせるが、今の自分には分からないことばかりだと思い、それ以上は何も言及しなかった。
ちらちらと空から雪が降る。
この地を守る氷の女神「エッダ」の涙。
古くからそう伝えられていた。
エッダの涙が大地を覆う時
白い世界から使者が舞い降りる。
その使者はニヴルヘイム(シリオスの旧名)の地に安住と平和を
古い言い伝えをふと思い出したダイムは、冬の到来に帰らぬ父を思っていた。
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(もうすぐ3年だよ。母さん。)
キッチンに立つメイの背中に向け、ダイムが思念を飛ばす。
母も彼の方を振り向かずに手を動かしながら応えていた。
(--そうね。お父さんが首都に行ってもうすぐ3年--ね。向こうはもっと寒いのかしら。)
母は振り返ると、笑みを浮かべていた。
(そうじゃなくて。何も連絡がないことを言ってるの。父さん、手紙くらい寄越しても--。)
すると、来訪者を伝える赤色灯が回る。
(こんな時間に誰かしら?ダイム、出て頂戴。)
母に促され、ダイムは玄関へと向かう。
玄関扉前で、扉の向こうに居るだろう人物に(はい)と、思念を飛ばすと返答がある。
(--特別郵便です。受け取りサインをお願いします。)
配達員から手紙を受け取り、サインをする。
差出人は「国防庁首都圏近衛警備局」--父の所属している部隊からだった。
ダイムは手紙を母へと取次ぐと、開封を促す。
手紙を読んだ母の顔は、みるみるうちに青白く変化していった。
(---消息、不明---?)
薄らと母の思念が伝わる。
(--母さん!どうしたの!)
ダイムの強い思念波により、母は気を持ち直したかのようにしっかりとした思念を送って来た。
(ダイム--お父さん、任務中に消息不明に--もう1ヶ月になるって。)
母の目には薄らと涙が浮かんでいた。
(ダイム、聞いて。あなたは、トトと一緒に留守番してて。お母さんはクロノス長官に会ってくる---。)
流れかけた涙を拭いながら母はそれだけを伝えると、暗い雪の中をシリオスへと向かった---。
(---ダイム。)
二階の自室からトトが降りてくる。
母との思念波のやり取りはトトには聞こえていなかったはず。
しかし、ダイムを見遣るその青い瞳は憂いを秘めており、何かしら察しているようだ。
(あぁ、トト--。父さんが-。)
ダイムは何と伝えれば良いのか分からず、話を逸らすように目を伏せてしまった。
父が何処からか連れて来た少年。ダイムにとって、紛れもなく親友となったトトだったが、彼を突然匿うかのように連れて来た事と父の失踪が無関係とは思えなかった。
それを察したのか、トトの念が伝わってくる。
(ダイム、きっとおじさんは--ガルキウスに居る。)
(--え?)
(あの日--僕をここに運ぶ前---先に誰かの家に立ち寄って--
ダイムは入学してすぐの頃を思い出した。
ティム先生の家に父が一度、意識のない状態のトトを連れ訪ねて来た事。きっと、ティム先生も何かしらの事情を知っている。父から直接知らされていなくとも、何かしらの情報は入っているのではと思っていた。
(トト、母さんの後を追おう。僕たちもティム先生のところへ---。)
ダイムは脱ぎっぱなしだったダウンジャケットを羽織ると、トトにも上着を着るように促した。
雪がちらつく夜。
この日を境にダイムとトトは、運命の大きな渦の中へと踏み込んで行くのであった---。
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