(9)才能
***
ひどく優しく暖かい声が耳よりも近い場所でした気がして目を開けると、穏やかで柔らかく微笑む隼人が目に飛び込んできた。と同時に、どうしてかは分からないけど、ひどく悲しくて切なくて、それでいて罪悪感も混ざってきて、ぎゅっと胸が締めつけられたように痛んだ。すると、急に目の前の隼人が見えなくなった。隼人どころかすべてが滲んで不鮮明で、おまけにこめかみと喉が痛くて、嚙み締めたくちびるの隙間から変な声が漏れた。頬を何かが下りていく。それがぼたぼた落ちる音がする。
「咲」
隼人の指がそっと頬を撫でていく。だけどそれが撫でているんじゃなく、拭っているんだと気付いて、それから自分が涙を流しているんだと知った。
「っう、うぅああ……!!」
堰を切ったように泣き出す私に隼人は「大丈夫だよ」と子どもをあやすような耳に馴染む優しい口調で、寄り添ってくれた。でも、その声が優しければ優しいほど、どんどん泣けてきてしまって、しまいには息をするのもやっとというほど嗚咽が激しくなっていた。そんなしゃくり上げ激しく上下する背中をいつまでもさすってくれた。それから何時間もずっと傍にいてくれた。
「――ずっと、暗くて残酷な悪い夢を見ていた気がする……」
そんなことを言葉にすると、彼は私を愛おし気に見つめ、わしゃわしゃと頭を撫でてくれた。そして――
「もう絶対に離さないから」
そう言う彼の瞳には強い光が宿っていた。
ドクン、ドクンと脈打つ胸を優しく撫でる。
――ふと違和感を感じて視線を上げると、私の格好をした何者かが立っていた。
「咲――」
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