ツインテール探偵は働きたい
二尾 ダイスケ
依頼0件目(プロローグ)
彼女の口から出た煙は少し漂って風に吹かれて消え、ツインテールは風が吹く度になびいている。
夜の風がわずかに冷たく感じる季節になってきた今日この頃、彼女こと『美作(みまさか)ノエル』と共にビルの屋上から下界を見下ろしていた。
「へちゅッ!!」
「相変らず可愛いくしゃみだねぇ。ちなみに、今日私に会って二十五回目だよぉ」
ノエル先輩はタバコを片手にニヤァと笑いながら、くしゃみをしたボクに言ってくる。
「なんで数えてるんスか!ちなみにさっき零時を超えたっスから、今日は一回目っスけどね!」
ささやかな反撃をしてみるが全くダメージを与えれた気がしない。
「くしゃみの可愛い君は髪を伸ばせば女の子としてもイケけそうだけどね」
「そんなこと言われても嬉しくないっスから!」
先輩のニヤニヤは止まらず、美味しそうにタバコを吸い続ける。
「そんなことより、毎回思うんスけどこんな高いところでも本当に見えてるんスよね?」
ん?と言いながらこちらを向く先輩は少し下がった眼鏡をあげながら答えた。
「ちゃんと見えてるよぉ。私、目も良いからぁ」
視力がいい人は眼鏡なんて掛けないと思うけど……それを言ってもきっと『そうかなぁ?』と言って濁されるのは想像がつく。
「んで、今日は誰を探してるんスか?」
「えっとねぇ、キャサリンって子らしいよ」
先輩がコートの内ポケットから出した写真には空中でフリスビーを見事にキャッチしている犬の姿が映っていた。
「キャサ……リン」
「そ、キャサリン。知ってる?」
全く、本当にこの人は突拍子もないことを突然言い出すから困ったものだ。
「なに言ってるんスか、知ってるわけないでしょ」
「そっかぁ、最近は依頼失敗ばっかりで困ったもんだよぉ」
「いいんじゃないっスか、その分ボクが稼いでるんスから」
「それがヒモみたいで嫌なのぉ!」
「ちゃんと働いてるじゃないスか……収入はゼロっスけど」
「フォローになってないよぉ!」
「ふふ……あ、へちゅッ!!」
「へへ、二十六回目ぇ」
なんて、たわいも無い話をしながら下界を見渡す、そんな時間を過ごしているうちに遠くの空が少し明るくなって来るのが見えた。
「先輩、そろそろ朝っスよ」
「えぇ……また依頼失敗なんだけどぉ」
「一緒に依頼者さんには謝ってあげるっスよ」
そう言いながら立ち上がった瞬間、袖に違和感を感じ視線をやると先輩が袖を摘んでいた。
「そうねぇ、君は謝らないとダメだもの。この子、どうしたの?」
先輩は犬の写真を見せながら聞いてくる。
ボクは知っている、この犬の名前がキャサリンでは無いこと。
この犬がどうなっているのか……いや、どうしたのかを。
「いやぁ失敗、しっぱいっスね」
やっぱりノエル先輩は凄い、能力を使っていないにも関わらず邪魔されるなんて。
もしボクが何もしなければ先輩はこのビルの下で犬を見つけていた、その代わりに……
「先輩、また会いましょうね……」
先輩の手を振り解き、なにか言おうとしている先輩を無視しビルの屋上から飛び降りた。
どんどん小さくなる先輩の姿を見ながら呟く。
「リセット」
『美作探偵事務所』
そう書かれた看板が示すのは地下一階で、歩道に面した階段を降りたところにある。
その建物の作りは、昔ライブハウスだったのだと感じさせる。
見た目より重い鉄の扉を開けいつものように出社するのであった。
「もぉ、依頼者が全然来ないんだけど!」
「たしか迷子の犬の依頼っスよね?もう見つかったんスよ、きっと」
ソファーの上でジタバタする先輩に適当な回答をしてみた。
「うぅぅ……依頼失敗が続くし、今日はドタキャンだしもうおしまいだぁ!」
「そんな悲しんでいる先輩に今月の生活費をプレゼントっスよ」
「ヒモみたいだぁ!」
「ま、今回の依頼はなくて良かったっスよ。ボク、犬とか触れるとくしゃみが止まらなくなるっスから……って聞いてないっスね……」
封筒を先輩の座るソファーの前のガラステーブルに置いて先輩の様子を眺める。
ワナワナしながら封筒を取ろうか取らまいか葛藤する先輩は今日も可愛いかった。
「君のくしゃみ、可愛いから好きだよ」
葛藤の末、しっかりと封筒を握った先輩がニヤァと笑いながら言ってくではないか。
「そんなこと言われても嬉しくないっスから!」
たわいも無い会話、こんな普通の日々をこれからも先輩と過ごしたい、いつまでも。
そんな私の願いを邪魔することは絶対に許さない。
たとえそれがノエル先輩だとしても。
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思いつきで書き始めたので、続きが気になるって人がいれば書いていこうかなと思うそんな感じです。
ツインテール探偵は働きたい 二尾 ダイスケ @nizi_futa
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