01-12.水潦へ突き落としました
「それで抱かせた?」
「嫌でした。だからその場から離れようとしたんですけど、うまく……足が動かなくて。なかば強引に
十四年前なら、
抱いている子が入れ替わってしまったのは、安積の本意ではなかった。
深涯はかける言葉なく、安積のこわばった頬を静かに見つめた。
「慶栖さまは代わりみたいに
安積は両手で顔を覆った。深涯はただじっと彼女が落ち着くのを待つ。安積は白い指先を震わせながら顔をあげた。
「……泳いだことなどなかったわたしはすぐに水を飲んで溺れそうになりましたが、それはほんの一瞬のことで、気づけば、
肩を落とし、安積は大きく息を吐く。
「あの日、
「あんなふうって?」
「髪と瞳の色です。
「ああ、それでおれのことを」
深涯は安積が先ほど
安積は、はいと頷く。
「
「実はおれがとんでもなく年寄りで、髪の色が抜けているだけかもしれないとは思わないのか」
「老いるとたしかに髪は白くなりますが、瞳もまたおなじように淡くなっていきますよね。深涯さまの瞳はそうではありませんから」
「しかし、それなら由稀のなにが問題なんだ。たしかにあいつは硝ではないから奇妙だとは思うが」
「由稀さんは、竜家のほとんどがそうであるように、髪も瞳も黒だったのです。慶栖さまに抱きあげられ、わたしが水潦に落ちてしまうそのときまで、たしかに黒だったのです。……それが、おなじ水潦から慶栖さまが出てきたときには、いまの
安積は壁に背を預けて、目を伏せた。
「この村にいるうちは、由稀さんがほんとうの意味であの色のことを理解するのは難しいでしょう。みな、由稀さんの出自を知っていますから。ですが、一歩でも森の向こうへ出たなら、話は違ってきます。……深涯さまはもう羅依さんと旅をなさってご存知ですよね」
「否応なくな」
「それでも深涯さまのことを還り子さまと思う者も多いでしょうから、まだずっと穏当かと思われます」
深涯は壁に半身でもたれながら、首を傾げた。
「色のほかに、由稀に変化はあったか?」
「と、仰いますと?」
「そう……たとえば性格が変わったとか、顔つきが変わったとか、物言いが」
そこまで言って深涯は自分で笑いを洩らした。深涯とおなじことを思った安積もともに小さく笑った。
「生後四か月ほどの子の物言いですか?」
「まあ……そうだな」
「多少、あーと言って指差す対象が増えたかもしれません。子どもは日ごと成長しますから」
「妙なことを訊いた。忘れてくれ」
深涯は羅依が置き忘れていった羅依自身の鞄を肩にかけた。出ようとすると安積が
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