第34話 スライムが現れた!
(出た、"スライム"!)
異世界といえばの典型的な初心者向けモンスターだが、キュリオシティのスライムは例の頭のてっぺんが尖ってる有名なデザインとは違うらしい。
真ん丸な目も、微笑んでいるような口もなく、ただ水玉がプヨプヨと揺れているだけ。一言で例えるなら『動く巨大な信玄餅』だ。
「何あれ、キショい!」
「え、可愛くないですか?」
真紬梨さんと香奈ちゃんが顔を見合わせる。
い、いや、どちらかと言われるとキショい方かな。香奈ちゃん、もしかしたらちょっと変わったセンスの子なのかもしれない。
しばらく道の真ん中でプルプルと震えていた信玄餅が、こっちに気付いたのか突然にじり寄ってきた。
「いやぁっ! 何かこっち来るんだけど!!」
「え? ち、ちょっと! 押さないで!」
真紬梨さんが慌てて須田さんを盾にする。
いや、須田さんは確かに盾使いだけど、違う。そういう使い方じゃない。
「皆さん、下がってください!」
田さんが前に出て、短剣を構える。さすがは自衛隊員、よく分からないけど、構えがプロっぽくて様になっている。
(よし、ここは俺も男を見せなきゃな。……さすがに最初のスライムで死ぬような鬼畜ゲーでもないだろ)
多少の打算も含めつつ、俺も腰の長剣を抜いて栗田さんと並ぶ。
「叶途さん、複数人での戦闘は攻撃のタイミングを合わせる事が大切です。同時に攻撃すると、互いの武器で仲間を仲間を傷つける恐れがあります。私が先に行くので、その後に続いてください。攻撃は交互に。――出来ますか?」
「――たぶん! 邪魔にならないよう気をつけます!」
互いに頷いてスライムに向かって駆け出す。タイミングを見計らって、栗田さんが一歩踏み込み、迷うことなくスライムにナイフを振るった。
――パシャ!
水が弾けるような音と共に、スライムの破片が飛び散る。
(……効いてるのか!?)
スライムの表情はわからないが、少し怯んだように見えた。
栗田さんが攻撃を終え後退したのを見て、今度は俺が踏み込む。
……もちろん剣なんか振った事は人生で一度も無い。
剣道か居合いでもやってない限り、現代日本で剣を振る機会なんてまず無いだろ。
(要はアレだろ。小さい頃公園で木の棒を振り回してた感じか!?)
とにかく、手から剣がすっぽ抜けないように強く握って力いっぱい振り下ろす!
ブンッ――!
全力で振り下ろした剣は、スライムの体を外して大きく空を切る。目標を失った剣は円を描き――
ガッ!!
勢い余って思いっきり地面を叩いてしまった。
「うぉっ!」
衝撃でジンジンと手が痺れる。
なんじゃこりゃ! 腰に下げてた時からそこそこ重量はあるなと思ってたけど、振り回となるとこんなに難しいのか!
剣の重みに翻弄されて、バランスを大きく崩す。
「叶途くん、危ない!」
栗田さんの声に驚き振り向くと、目の前では既に巨大な信玄餅が宙を舞っていた。
勢いよく飛びかかってくるスライム。
その直撃を腹に受け、思わず後ろにすっ転ぶ。
「ぐえっ!」
ダメージとしてはドッジボールを強めに当てられたくらいだが、不意打ちな事もあり痛いは痛い。転んだ拍子にお尻まで打ってしまった。
「叶途さん、大丈夫ですか!?」
香奈ちゃんが心配そうに駆け寄ってくる。
「大丈夫! 大した事ないから!」
平気なふりをしてすぐに立ち上がるけど、実際はいきなりこんな目に遭って既に泣きそうだ。
香奈ちゃんにこれ以上カッコ悪い所を見せるわけにもいかないし、剣を握りしめ気合を入れて再び栗田さんのそばまで駆け寄る。
「根性ありますね! いいですよ! 相手の動きはそこまで早くありません。落ち着いてゆっくり狙ってください」
栗田さんは落ち着いた声で俺にアドバイスをくれると、再びスライムに斬撃を浴びせる。今度は素早い2連撃で、その両方がスライムの体を弾き飛ばした!
かなり効いたのか、スライムはひっくり返って(?)グニョグニョと体を伸縮させる。――き、キモい!
「さぁ! 今のうちに……」
栗田さんが俺に声をかけるが、俺は慌てて後方に居る香奈ちゃんたちの方へ走る。
全員が前のスライムに気を取られている間に、後ろの草むらからもう一匹のスライムが忍び寄っていた!
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