第32話 初めての依頼はアイテム採取

「それで――依頼はどれを選びましょうか?」


 ふぅと一息ついて、栗田さんが改めて俺たちに問いかける。


「そ、そうですね。僕はこういうのに詳しくないので、みなさんにお任せします。ただ、体力にはあまり自信は無いですけど」


 掲示板を見つめていたおじさんが少し戸惑いながらこっちを見た。

 俺もこういう場で決定を下すのには慣れてないけれど、確かにこの中じゃ一番詳しいだろう。


「それなら、この依頼はどうかな。Eランク『珍しい薬草、星屑草ほしくずそうを1つ見つけてきてください』。アイテムを探すだけならあまり体力は要らないし、報酬も他の依頼より少し高いですよ」


 Eランクエリアの隅に貼られた依頼書を指し示す。


「このイラストの植物を探せば良いんですね?」


 比奈野さんが依頼書に描かれた星型の葉をした植物を指差して確認した。


「あぁ。これだけ特徴的な見た目なら、素人の俺たちでも分かるだろう」


「じゃあ、これにしましょう。えぇと……“グランディオーソ草原”で探せばいいのね」


 栗田さんが依頼書を細かく確認していると、その様子を見ていた受付のお姉さんが私たちに気づいて手を振りながら声を掛けてくれた。


「もし必要でしたら、こちらで周辺の地図をお渡しできますよー!」


 受付で地図を受け取り、星屑草の特徴について少し訪ねたあと、俺たちは冒険者協会を後にした。



 ◇◇



 外に出たところで、お姉さんとリーリッヒさんが熱心に会話しているのが目に入った。どうやらお姉さんがこの世界の物価や経済について質問攻めにしているようだ。その様子から見るに、リーリッヒさんも物の元気を取り戻しているようで安心した。


「あ、依頼決まったの?」


 俺たちに気づいたお姉さんが手を振って合図を送ったてくる。


「はい。"グランディオーソ草原”という所で珍しい薬草を探します」


 栗田さんが貰って来た依頼書をお姉さんに見せながら答えた。


「グランディオーソ草原か。初心者の探検には打って付けだな」


 リーリッヒさんが依頼書を見てうなずく。


「そうなんですか?」


「あぁ。街から近いし、強い魔物も出ないからな。――ただし、エリアの主である"グランドドラゴン"にだけは間違ってもちょっかいを出すんじゃないぞ」


「ド、ドラゴン!?」


 その名前を聞いた途端、あの日部屋の窓から見たドラゴンのとんでもない破壊力を思い出す。


「そうだ。Sランククエストの討伐対象にもなっている非常に強力な魔物だ。だが、そんなに心配するな。特別好戦的な訳でもないし、不用意に近づいたりしなければ向こうから襲ってくる事は無い」


「そ、それは良かった」


 初めての冒険でドラゴンと対峙なんかしたら間違いなく全滅だろう。

 いくら死なない事が保証されているとはいえ、恐い物は恐いからな。


「それじゃあ、装備を整えて早めに出発するといい。暗くなると厄介だからな。あんたら、さすがに金は持ってるんだろ?」


「――そ、そうだお金!」


 お金を手に入れるために冒険者協会に来たっていうのに、冒険に出るための装備にお金がかかるとは……! もしかして最初に選ぶ依頼間違えたか……!?


「あ、それなんだけど。みんな運営から届いてるメッセージ見てみて!」


 慌てる俺を見て、お姉さんがポケットから身分証のカードを取り出して見せる。

 言われる通り自分のカードを確認してみると、また運営からメールが届いていた。


『初めての依頼受注おめでとうございます! さっそく準備をして冒険に出かけましょう! 皆さんの首に掛けられているネックレスは運営からのプレゼントです。お店で売れば100λ程の収入になりますよ! 他にこれといった性能はありませんので、是非換金して冒険の準備に役立ててください!』


「ネックレス? あ、これか!」


 確かにこっちの世界に来たときに、服が変わっていると同時に首からネックレスが下がっていた。

 ただの飾りかと思ってたけれど、換金アイテムだったのか。


「100λくらいで装備って揃うかしら?」


 お姉さんが胸元のネックレスを取り出してリーリッヒさんに見せる。


「あぁ。十分とは言えないが、グランディオーソ草原で薬草を摘んで来るくらいなら問題ないだろう。馴染みの店で良ければ何件か紹介できるが、一緒に見て周るか?」


「もちろん!」


 断る理由もなく、リーリッヒさんに案内してもらい全員分の装備を一通り揃える事ができた。

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