第29話 倉庫街を抜けて
港の倉庫街を抜けると細い路地に入った。
道の両側を石造りの壁が囲み昼間でさえ薄暗く感じる。おそらく、地元の人しか知らない抜け道なんだろう。
石壁には所々に扉があり、中には『Bar』と看板の掲げられた店もある。港町で働く人たちの隠れ家みたいな場所か。夜になれば賑わうのだろうけど、今は人影もまばらだ。
リーリッヒさんは迷うことなく歩を進めていき、すぐ後を栗田さんがついていく。俺たちはその後に続いた。
栗田さんだけは険しい顔で辺りを警戒しているみたいだけれど、他のメンバーは観光気分満点。異世界の雰囲気に堪能しながら楽しそうに話してる。
かくいう俺も、気になるレストランを見つけてはつい立ち止まり、皆に置いていかれそうになった。急いで追いついたら心配した比奈野さんに少し怒られたけど……海沿いの街のレストランなら、きっと美味しいものが食べられるんだろうな。異世界の料理ってどんな味がするんだろうか。
「よーし、ストップ!」
突然、先頭を歩いていたリーリッヒさんが立ち止まった。
「!? 何かあったんですか!?」
栗田さんが慌てて尋ねると、リーリッヒさんが可笑しそうに笑って手を振った。
「いや、そのトラブルにならないように注意だ。ここから先は表通りで人も増える。あんたら土地勘も無いんだから逸れないようにな」
「り、了解です。皆さん、私から離れないでくださいね」
栗田さんが振り返って俺たちに呼びかける。
「はは、まるで遠足ですね」
「大丈夫よ。子供じゃないんだから」
おじさんとお姉さんは可笑しそうに笑った。
ふと何かに引っ張られる感覚に気づいて振り返ると、比奈野さんが黙って俺のシャツの裾を掴んでいた。
迷子にならないように、という事なんだろうけど、彼女の心配なのか、俺の心配なのかは分からない。
「それじゃ行くぞ」
リーリッヒさんに続いて路地から抜けると、路地の暗がりに成れていた目が一瞬眩む。
――そして耳に届くのは、賑やかな人々の声。
呼び込みに精を出す露店の商人や、酒場の前でたむろする冒険者。
店頭で物々交換をしている旅人や、街角で歌を披露する人々もいた。
ぱっと見、にぎやかな観光地みたいな風景だけど、よく見れば俺たちの知ってる世界とは違うところがそこかしこにある。
店頭に並ぶのは土産物じゃなくて、剣や盾みたいな本格的な武器たち。
露店には巻物や奇妙なアクセサリーが並んでて、その全てが珍しい。
歩いてる人たちだって、現実世界の人とは全然ちがう。
鎧を身につけた騎士や、ローブに身を包んだ魔法使い。
それに、ちょっと露出の多いシーフ風の少女や、毛皮をまとったアーチャーもいる。
これぞまさに、異世界の街!
「すごっ、ホントにゲームの中みたい……」
お姉さんが小さくつぶやいた。
広場のど真ん中には大きな噴水があって、絶えず溢れ出す水が巨大な宝石を掲げている。
……よく分からないけど、この街のシンボル的なモニュメントだろうか。
そんな時、ふと知ってる声が聞こえてきた。
「おい! あれ見てみろ!」
人々の視線も気にせず大騒ぎしてるのは、アルファチームの金髪の男だ。港でいなくなったと思ったら、もう街中まで来てたのか。
「猫耳だぜ、猫耳!」
金髪が興奮して指さした先には、猫の耳がついた女性がいた。
「ねぇ、それ本物の耳!? ちょっと動かし見せてよ!」
金髪は女性の近くまで走って、その耳を触った。
「えっ!? ちょっと何するんですか!?」
ビックリして飛びのく猫耳の女性。
「はあ? なにって、ちょっと触るくらいいいだろ。俺たちお客さんなんだから、サービスしろよ」
「え? お、お客さん? 何を言ってるんですか、やめてください」
戸惑った顔で身を小さくして警戒している。
「おいおい。キャバクラじゃねーぞ」
見かねたロン毛が金髪を宥める。
「は? なんだよ、お前はケモミミに興味無ぇの? いいぞ、ケモミミは!」
「そーいう問題じゃねぇだろー」
全く悪びれる様子のない金髪に少し呆れるロン毛。そこに黒岩さんが「おいお前たち、いい加減にしてくれ!」と割と本気の圧で止めに入り、金髪は渋々と先に進んでいった。
「同じような服を着てるが……あいつらも、アクターなのか? あんたらの仲間か?」
眉間にシワを寄せこっちを見るリーリッヒさん。
「ま、まぁ……一応。今日初めて会ったんだけど」
「……まぁ、いい。リザードマンだっていろんな奴がいるからな。あんたたちがあいつらとは違うってのは見てわかる。俺はこう見えても人を見る目はあるんだ。行こう」
リーリッヒさんについて街を進むと、やがて目立つ大きな建物が現れた。
一際目を引くその立派な建物。開け放たれた大きなドアから中を覗くと、剣士や魔法使い、武闘家など、様々な冒険者たちでにぎわっている。
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