第28話 でました冒険者ギルド

「それでだな。“アクター”ってのは、あんたらみたいに異世界から来た旅人の事を言うのさ。古くからある言い伝えだが、俺も実物を見るのはあんたらが初めてだ」


「言い伝え……。過去にも僕たちのように異世界からの訪問者がいたってことですか?」


「あぁ、もう百年以上も昔の話らしいがな」


 一瞬、両親の事を思い浮かべたけれど――百年も前ということはきっと違うだろう。


 俺とリーリッヒさんが話してる後ろで、おじさんと栗田さんがコソコソと話しているのが聞こえてくる。


「どういう事でしょう。僕たちよりも前にこの世界に来た人がいたと?」

「それか……そういう物語の設定なのか、ですかね」


 長々と立ち話をしている俺たちに痺れを切らしたのか、お姉さんが勢いよく前に出て、リーリッヒさんに元気いっぱい声をかけた。


「ねぇ、それよりトカゲさん! ここってどんな街なの!?」


「ト、トカゲ……。こっちもまた失礼なネェちゃんだな。まぁ、いい。――ここはヒューマンの都“オーバーチェア”だ。世界でも有数の貿易都市で、見ての通り世界中から船や貨物も集まる、言わば物流の中心地だな」


 リーリッヒさんが堤防を指差すと、ちょうど大型の帆船が出航しているところだった。甲板からは、異国情緒溢れる、いろんな種族の人々が見送りに向かって手を振っている。

 まさに旅立ちって感じだで、俺たちもいつかこの港から出発して異世界中を巡るんだろうなと思うと、胸がワクワクしてくる。ホントよく出来てるな、この世界。


「――ところで、あんたら。何処に向うつもりだったんだ?」


 リーリッヒさんがふと、栗田さんを見下ろしながら訊ねる。


「何処……といわれると、どこでしょう。特に何かする事があるとも聞いていませんし……」


「なんだよ、アクターってのは何か大きな使命とかを背負ってこの世界にやってくるものかと思ってたぜ」


 少し呆れたように額に手を当てるリーリッヒさん。その時、おじさんが話に割って入ってきた。


「異世界の冒険といえば魔王の討伐ですよ! この世界にも人々を苦しめる魔王軍が存在するのでは!?」


 ビシリと海の彼方を指差すおじさんだったが、その指先を見つめてポカンと口を開いたままリーリッヒさんは呑気に答える。


「何だよそれ? 聞いた事もないな。子悪党やいけ好かなねぇ貴族、眉唾な宗教団体ならごまんといるが」


 リザードマンに眉毛は無さそうだけど……と余計なことを思いつつ、とにかくこの世界はいたって平和なようだ。

 となると、俺たちの目標っていったい……?


 皆が次の言葉に困っていると、突然思い出したように比奈野さんが口を開いた。


「……そうだ、あのカード! 冒険のヒントが送られてくるって言ってたじゃないですか」


 比奈野さんがポケットからカードを取り出す。一緒に覗いてみると、メールのアイコンが書かれたメニューに新着のバッジがついていた。


「ほら! 何か届いてますよ」


 嬉しそうに俺に笑顔を向けると、比奈野さんが細い指でアイコンをタップする。


『キュリオシティ運営より:攻略のヒント

 皆様、異世界での最初の街への到着おめでとうございます。大きな街で突然何をすれば良いか迷っておいででしょうか? 美味しい食べ物、素敵な衣装、魅力いっぱいのお店で溢れる街ですが、何をするにもお金がなくては始まりません。まずは冒険者協会に向かってみてはいかがでしょうか。協会ではみなさんの冒険に役立つ様々な情報を無償で提供してくれます』


「おぉ! 冒険者協会、ギルド! さっそくファンタジーっぽくなってきたじゃんか!」


「ギルド……?」


 盛り上がる俺とは対比的に、比奈野さんがキョトンとした顔でこっちを見る。

 他のメンバーも同様に俺の顔を見ているが、みんな異世界アニメとかゲームと興味ない人たちなんだな。


「えっと、ギルドっていうのは俺たちみたいな冒険者にクエスト……仕事を斡旋してくれる団体ですよ」


「え、仕事!? ヤダ、異世界まで来て仕事なんてしたくないんだけど」


 "仕事"という言葉に反応したお姉さんが真っ先に嫌な顔を浮かべる。


「だ、大丈夫です。仕事いってもデスクワークとかじゃなくて魔物退治とかアイテム採取とかのはずですから」


「それはそれでダルそうなんだけど!」


 そうはいいつつも、少し俺をからかうように笑ってみせるお姉さん。ただの冗談を真に受けてしまったのかもしれない。


「それでは、まずは冒険者協会に向かってみるという事でよいでしょうか!」


 栗田さんが皆を見回して確認する。


「「はーい!」」


 全員が揃って返事をしたのを聞いて、リーリッヒさんがポンと手を叩いた。


「お、なんだ? 冒険者協会に行くのか? それなら案内してやる。ついて来な」


「え、いいんですか?」


「あぁ、どうせ街の方に行く予定だったからな。"ルビアの森に行くなら三人で"っていうだろ。遠慮すんるな」


 ……こっちの世界のことわざだろうか? よく分からないけれど、リーリッヒさんの好意に甘えて冒険者協会まで案内して貰うことにした。




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