第17話 運命の日

『最後に、国民の皆様への重要なお知らせとお願いがございます。近日中に、一部の世帯へと特定のお便りが届くことが予想されます。その差出人名は"キュリオシティ"と明記されており、これは先ほどお話しした施設の正式名称です。この文書は施設からの特別招待状となっております。テーマパークの公開前に、一部の市民を招待する意向とのこと。もしご自宅にそのような手紙が届いた際は、政府指定の連絡窓口まで速やかにお知らせいただくようお願い申し上げます』


 テレビ画面に大きく電話番号が表示される。


『くれぐれも、独自の判断で施設へ直接出向かないよう重ねてお願い申し上げます。皆様の安全確保のため、近隣の道路には自衛隊による検問ポイントが設けられております。個人での訪問は制限され施設への接近が認められません。その旨、ご理解の程をお願い致します。再度申し上げますが――』


 なるほど、会見を聞いていて一つ分かった事がある。

 政治的な事はあまりよく知らないけれど、突然近海を占拠された上にこうもあっさり向こうの言い分を、一方的に聞き入れるのはさすがにおかしいと思った。

 北朝鮮のミサイルが領海外に落ちただけで大騒ぎなのだから、やろうと思えば領海侵犯として武力行使する事だって可能なはずだ。

 けれど強硬手段に出ないのは……あのドラゴンの一撃。あれはおそらく、の戦力を日本に明示してたんじゃないだろうか。

 そして、その戦力差を確認した上で日本側の出した結論……。おそらく、安易に抗ってはいけないと判断したんだろう。



 その後も総理の会見は一時間近くに及んだ。

 後半はパークのチケットについての詳しい説明が殆どだった。

 チケットは他人に譲渡する事は出来ない。受け取った場合の電話連絡は義務ではなく怠っても罰則は無いが、可能な限り協力をお願いしたい。などなど。


 そして――チケットの配布は五日後、8/28の午前八時。

 なんと、異世界の力でポストまで届けられるそうだ。……何だよそれ?



 ◇◇◇◇◇



 7/27

 総理の記者会見から四日が経ち、その間テレビはひたすらに特番を流し続けた。

 ネットやSNSも“キュリオシティ”の話題で持ちきりだ。


『なぁ、叶途はもしチケット当たったらどうする?』


「んー、分かんねぇ。とりあえず窓口に電話はしとくかなぁ。七海ななみは?」


『えー。私は黙ってようかな。もし連絡して“国の為に犠牲となって視察に行ってこい”とか言われたら嫌だもん』


 グループ通話の相手は和と七海。

 俺の数少ない友達という存在で、七海は小学生からの幼馴染、和は今年から高校で同じクラスになったばかりだ。

 二人とも良い奴で両親の居ない俺の事をそれとなく気遣ってくれている。


「何だよそれ。徴兵令でもあるまいし」


『分かんないよー。だってネット見てると色んな陰謀論とか噂があるんだから。和と叶途も、もし当選しても行かないでよ』


『そんなの行く訳ないだろ。何で安全かも分かんない場所に夏休み何日も拘束されなきゃいけないんだよ。なぁ、叶途?』


 陰謀論か……。

 一緒になって異世界の話で盛り上がった、あの日のお姉さんの笑顔を思い出す。


『おい、叶途?』


 和の呼びかけでハッと我に返る。


「あ、おう。俺も夏休みはバイトあるからな。行く訳ないだろ」


『よかった! それじゃ、一応明日の朝に当選結果報告会ね!』



 ◇◇◇◇◇



 7/28

 チケット配布当日。午前7:50分。


 今朝も夏に相応しい晴天で、まだ朝だってのに既にジリジリと日差しが熱い。


 さすがに気になって、玄関の前にある郵便ポストの横に立って時間を待つ。

 普段は電気やガスの請求書が届く以外、チラシすら入っていない。もう一度中を確認してみるが、さっき見たときと変わらずポストは空っぽのままだ。


 今頃、日本中の人たちがこうやってポストの前で待機してるんだろうか。

 ここから見える範囲には人の住んでる民家が無いから、他の家の様子は分からない。実際、学生や無職の人以外はみんな仕事に行ってる時間か。夕方まで確認出来ない人は、帰ってポストを見るまで気がきじゃないだろうな。

 いや、それとも案外気にも留めていない人の方が多いのか……?


 スマホで時間を確認する。


 7:55


 不意に、道の向こうからバイクのエンジン音が聞こえて来たのに気付いた。


(こんな街の外れに朝っぱらからバイク?)


 胸の鼓動が一瞬早まる。


 何となく……予感がする。

 息を殺して道の先を見ていると、音は段々と大きくなり……見えてきたのは郵便局の配達バイクだ!

 その姿を見た途端、心臓が大きく一度鼓動を上げる。


(え……マジ?)


『開園の折には是非とも君を招待させてくれ』


 お姉さんのあの言葉、まさか本当だったのか!?


 ゆっくりと近づいてくるバイク。

 家の前に差し掛かると、配達員さんは俺の顔を見るてニコッと笑い――そのまま走り去って行った。


(……え? 違うの?)


 そのまま曲がり角を左折し、エンジン音はどんどんと遠ざかっていった。


(……何だよ! 紛らわしいな。まぁ確かにそっちに抜け道あるけど)

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