「せ」

Column1 「世間ずれ」は「世間知らず」のこと?

 今回は、「世間ずれ」という言葉について取り上げたいと思います。


     ☆


「世間ずれ」という言葉を聞いたとき、皆さんはどういう意味を想像するでしょうか。

 もしかすると「世の中の考えとずれている」という意味に捉える方もいるかもしれません。しかし、もしそうであるなら実際の意味とは違っています。


「世間ずれ」は「世間れ」とも書き、本来の意味は「実社会でもまれ、ずるがしこさを身に付けている(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)」とか、「苦労してきたため、悪賢くなる」といいます。


「擦れる」には、「世間慣れして、人柄が悪賢くなる」という意味が含まれています。そこから考えると、本来の意味として捉える方が自然かと思います。


 しかし、文化庁が平成25年に行った「国語に関する世論調査」では、「世間ずれ」を本来の意味ではない「世の中の考えからずれている」で捉えられている方が、全体の55パーセントを超える結果になりました。


 平成16年にも同じ調査を行っているのですが、「世の中の考えからずれている」で捉えている方は約32パーセント。よって、この結果を比べると本来の意味ではないほうを使う人が増えてきているのです。


 これについて、辞書はどのように考えているのでしょうか。下記に整理してみました。



●「世間ずれ」を「世の中の考えとずれている」と捉えることを俗語として認めている辞書

『三省堂国語辞典 第八版』


●「世間ずれ」を「世の中の考えとずれている」と捉えることを「近年の用法」として取り上げているもの(⇒ただし、認めているか否かは定かではない)

『大辞林4.0』


●「世間ずれ」を「世の中の考えとずれている」と捉えることを誤りとしている辞書

『明鏡国語辞典 第三版』『三省堂現代新国語辞典 第六版』


●おそらく「世間ずれ」を「世の中の考えとずれている」と捉えることを認めていない辞書(⇒言及されていない・用例がないため)

『新明解国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『旺文社国語辞典 第十一版』『岩波国語辞典 第八版』『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』



 かろうじて『三省堂国語辞典 第八版』が俗語として認めてはいるものの、多くの辞書では「世間ずれ」=「世の中の考え方とずれている」として捉えることを認めていないようです。


 このことから、「世間ずれ」は「実社会でもまれ、ずるがしこさを身に付けている(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)」という意味で捉える(使う)ほうがよさそうです。

 


◇掲載場所◇

『NIHONGO ‐Ⅱ‐』2022年―8月―Column4

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