Column8 「膝をつめる」の話

 今回は、「ひざをつめる」について取り上げようと思います。


     ☆


 先日、読んでいたエッセイ本のなかに「社内に集まった俺たちは、会社の不良債権問題を解決すべく、膝をつめて話した」というような表現を見かけました。(いつものようにニュアンスのみ残しております)


 もちろん、「膝をつめる」の意味が、単純に「お互いの膝がくっつくぐらい近づいた」ということは、辞書で調べずとも多くの方が分かることでしょう。


 ですが、こういう場合「膝を突き合わせる」が使われることが多い印象があったのと、そもそも「膝をつめる」というのは初めて目にしたので、「膝を突き合わせる」とどう違うのだろうとふと思ったのです。


 早速調べてみたのですが、意外にも「膝をつめる」は出てきませんでした。


 いつも使っている辞書を全て引いて、唯一あったのが『三省堂国語辞典 第八版』。それには「ひざづめになる」(『三省堂国語辞典 第八版』より引用)とだけ書いてありました。


 もしかすると「膝をつめる」というのは、もともと「ひざづめ(膝詰め)」からきた言葉なのかもしれません。また辞書の掲載状況から想像するに、「ひざづめ」と使う方が一般的で、「膝をつめる」という言い方をする人が少ないのだろうと思われます。


 さて。

 次に、「ひざづめ」で辞書を引いてみると、これは多くの辞書に載っていました。 

 意味は「おたがいに相手のひざがふれるほど近寄って、向きあうこと」(『三省堂国語辞典 第八版』より引用)。


 では、「膝を突き合わせる」はどうでしょうか。調べてみると「〔たがいのひざがくっつくくらい〕近づいてすわる」(三省堂国語辞典 第八版』より引用)とあります。


 こうしてみると、「ひざづめ」も「膝を突き合わせる」もほとんど同じ意味であることが分かります。また、「膝を突き合わせる」という慣用句には、「膝を突き合わせて話し合う」とあるように、「率直に話し合う」(『新選国語辞典 第十版』より引用)という意味もあります。


 そう考えると、冒頭に挙げた例文は、辞書の用法にはないですが「率直に話し合う」というような意味で使われたのでしょう。


 そう考えると「膝を突き合わせて話した」という表現でもいいですし、むしろそのほうが聞き馴染みがあるのでいいのかもしれません。


 ですが、「膝をつめる」とすることで、書き手が普段使っている言葉が表れている気がして、たかが「膝をつめる」ですけど、そこに味わいがあるなぁと思いました。

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