俺の理想の学校生活
AIDA・F
「俺の理想の学校生活」
降り注ぐ雨、荒れる波、唸る雷、暗い体育館、俺は溜息を吐くように言った。
「帰りたい」
電気がパッとついた。
「皆様、ご迷惑をおかけしてすみません。改めて、これより海聖高等学校入学式を行います」
(台風の中で入学式とか頭悪いだろ。警報出せよ、警報...)
と思いつつも入学式を終えて教室に向かった。席に着き最近買った小説を手に取り、最初の授業が始まるのを待った。この小説はサスペンス系小説だ。主人公が殺人鬼の無実を証明するものだ。犯人の過去がわかり、いよいよクライマックス!というところでしおりを挟んでいる。続きを読もうとした瞬間にチャイムが鳴り、一文字も読めなかった。ドアが開き、担任っぽい先生が入ってきた。
「今から最初の授業を始めます。改めまして皆さんご入学おめでとうございます。今日から皆さんの担任になりました。菜次菜津です。よろしくお願いします。早速ですが、自己紹介をしてもらいます。名前、年齢、誕生日、将来の夢を言ってください。」
(自己紹介でなんで毎回将来の夢を言っていかなきゃいけないんだよ。小学校からあるこの謎ルール何?夢持ってないやつのこと考えろよ。配慮が足りてねえよ)
などと思っているうちに自分の番がやってきた。面倒くささと気怠さを抱えて教卓に立った。
「八川勇、15歳です。誕生日は7月3日。将来の夢は特にないです。よろしくお願いします」
こうして俺の学校生活が始まった。
入学から1週間が過ぎた。特に何もなく、平穏な日々を過ごした。だが今、難題が迫ってきている。
「今日は体力テストしてもらう。2人1組を作って、順番に計測していくように」
体育の先生の図太い声が体育館に響く。
(二人一組⁈無茶言うなよ。何でもかんでもペア組ませようとするよな)
周りがペアを作っていく中、俺はポツンと立っていた。ぼ~っとしていた時、突然
「ペア組もうぜ!」
最初は俺じゃないと思ったが、そいつはこっちを見つめている。どうやら俺に話しかけたようだ。驚いた、とにかく驚いた。組もうなんて言われるとは思ってもいなかった。
「お、俺に言ってる?」
「うん、君に言ってる」
「よ、よろしく。え~と...」
「嘘誉、嘘誉真。真でいいぜ。確か、八川勇だよな?」
「うん。えっと、真は何からしたい?」
「体力テストと言ったら、まずはあれだろ?」
(握力。まあ体力テストといえば
と思いつつも右手でグリップを握った。
「勇、去年何キロだった?」
「34キロだった気がする」
そう答えるとどこからともなくリズムのいい音楽が流れてきた。まさにクラブのような。
「さあ始まりました、八川勇の力試し!去年の結果は34キロ。今年は何キロなのか!」
「え?はあ⁈」
動揺を隠せなかった。何が起きているのかわからなかった。しかし、ここで真を止めると変な空気になると思い、止めずに続けた。
「それでは行きましょう。八川勇の挑戦です!」
「お、おららぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
(空気を読むしかない)
と思い、声を荒げ、思い切り握った。
「さあ、結果は...さ、32キロ。よ、よし、次は俺の番だ!」
真は少し気まずいのか、何も考えていないのか、笑いながらグリップを握った。俺はこんなもんだろと思いながら、真の結果を見た。
「っ⁈ご、54キロ⁈」
「おお~、新記録。よっしゃ!」
(こいつ、ほんとに高校生か?敵に回さないでおこう)
と思い、残りの項目をこなした。
「勇、記録見せ合おうぜ」
「いいけど」
(互いのは知ってるだろうに)
と思いつつ記録用紙を並べた。改めて見ると真は運動神経が凄くいい。右54キロ、左50キロ、上体起こし37回、長座体前屈52センチ、反復横跳び65回、20mシャトルラン127回、50m走7.21秒、立ち幅跳び243cm、ハンドボール投げ37m...。全て全国平均を上回っている。それに比べて俺はほぼ平均値。振れ幅があるとしても±5といったところか。
(真が凄いだけだよな?俺が運動できないわけじゃないんだよな?)
「真は運動神経凄いね」
「そんなことねえよ。中学の時の記録より全然伸びてないし」
(中学の時からこんな記録だったのか⁈バ、バケモノだろ)
己の非力さを思い知った一日だった。
金曜日、6時間目のチャイムが鳴り響いた。
「これでHRを終わります。そうだ!入部届けを出してない人は今週中に出してください。ちなみに、この学校は部活必須です」
(部活なんて勘弁してくれよ~)
荷物をまとめて席に着き、部活リストを見た。
(楽なのを探すしかないよな)
とため息を吐いた瞬間、真がこっちに走ってきた。
「勇!部活決まってないなら一緒のとこ入ろうぜ!」
「いや〜、う、運動部はちょっと...」
「何言ってんの?俺は文化部だけど。」
「⁈あ、そうなんだ。え?文化部⁈」
「そうだけど、どした?」
「い、いや」
唖然、そして理解不能、この2つの言葉が頭の中を回り始めた。
(運動部じゃないだと⁈運動神経いいのに何で文化部なんだ。もしかして、嘘をついて勧誘しているのか?)
「ーい、おーい。大丈夫か?なんかぼ~っとして」
「いや、何でもないよ。それで何部に入ってんの?」
「理想部」
「ここが理想部の部室。学校の端の方で誰も使わないから使わせてもらってるらしい」
見るからにやばい。扉の隙間から溢れるカラフルな光と派手な音楽、まるで渋谷にあるクラブのような感じだ。
「失礼しま~す」
「ちょ、真待って。まだ入部する、と、は...」
開いた口が塞がらない。そこには、左目に眼帯を付けたショートヘアーの少女がリズミカルに踊り、その横ではロングヘアの美女が少し照れながらマラカスを振っていた。そして教卓の上にタブレットを置き、DJっぽいことをしているメガネをかけた男。こちらに気づいたのか音楽とダンスを止めて駆け寄ってきた。
「先輩、部員一名追加で~す」
「お!やったな真!部員6名いなかったらやばかったからな~、助かったよ。俺は梅野健五、よろしく」
「桃原桜です。よろしくね」
「我は破魔愛実だ。歓迎しよう一年」
(うわ~。兄貴感あふれる男とおそらくこの学校のマドンナであろう美女、それと中二病?関連性が見えない)
「八川勇です。よろしくお願いします。あの~、この部は何をする部なんでしょうか?」
「私が説明するね。この部はみんながしたいことをする部だよ。さっきは愛ちゃんが踊りたがってたからクラブっぽくしてたの。まあ、好きなことしていいからね」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ今日は歓迎パーティーをしよう。真と愛実はジュースとお菓子を用意、桜は音楽のセットをお願い。俺はさんを探してくる。勇は...そこらへんに座ってて」
「は、はい!」
(何だ、この団結力は...)
と思いつつソファに腰を下ろした。ここで1つの疑問が浮かんできた。
「なあ真。アイさんって誰だ?」
「佐河だよ、佐河逢。お前の隣の席だろ。ほら、背が低くて目の鋭い」
「いやぁ、思い出せん」
その瞬間、梅野先輩が戻ってきた。
「あれ?健五先輩、佐河さん居なかったんスか?」
「そういえば今日、部活来ないって言ってたの忘れてたよ」
「居ない者は仕方ないとして、パーティーを始めようではないか」
『かんぱーい』
その瞬間部室のドアが開いた。そこには菜次先生がいた。
「やばい!真、勇、今すぐ逃げろ!」
その瞬間、菜次先生はドアを閉めて鍵をかけた。
「逃がさないわよあんたたち。今回の失恋話を聞け~!」
と言い、干しイカを持って椅子に座った。
「な、なんですかこれ」
「菜津先生は理想部の担任で失恋すると部室にきて1時間以上その話をするんだ」
「とにかくなっちゃん落ち着いて。ジュースでも飲んで」
「さくら~。あんたが男だったらよかったのに~、ありがとぅ。」
「ははは、私が男の人でもなっちゃんみたいな人は嫌かな~」
「そんなこと言わないでよ~。くそっ、こうなったら学校が閉まるまで話を聞いてもらうからな!覚悟しろ~!」
「待ってください先生。今日は新入部員がいるんですよ?さすがに」
「愛実、本当か!なら廃部は免れたんだな。なら祝いに私の失恋話一人目から聞いてもらうからな!」
何が起こっているのかもわからないままその失恋話を4時間も聞かされ、気づいたときには20時になっていた。でもこういう部も悪くはないかなと思った一日だった、多分。
「なんかごめんな、勇。無理やりみたいになって」
「 いや、いいよ。どうせ部活には入らないとといけなかったし、あんまり思い出さなくてすみそうだし」
「思い出す?何を?」
「いや、こっちの話。じゃあ寮こっちだから、バイバイ」
「そっか、勇は寮生だったな。また明日!」
そう言って真は手を振って歩いてった。
(また明日、か...)
頭の中にふとよみがえる記憶。中学1の夏の頃の思い出...。
(ウザかったなぁあれは。もういいや、それにここなら誰も俺のこと知らないし、ちゃんとした学校生活を過ごせるはずだ。そうだよ、ここから始めるんだ。俺の理想の学校生活を)
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