第40話 憎いから。

「やっほ。雷斗」


 俺は、いつものように下校していただけだったはずなのに。


 いつもより薄暗い道。


 声の聞こえた方向を振り替えると、文化祭の時に海里を見ていた男がいた。


 快凪と何か関係があったような、、。






































































 そう考えたとき、俺の頭に何かが蘇ってきた。


「お前、、快凪のか?」


 快凪の最近の態度。


 俺の忘れていた記憶。


 思い出したくなかった。


 思い出すべきだったのかも知れないけど。


「そうだよ。やっと、思い出してくれたんだね?」


 ニコニコした不気味な顔で話してくる。


 こいつは、海里のことが好きだと言い張っているやつだ。


 快凪が一応兄ではあるとはいいつつ、快凪は嫌いになれないのに快凪を妨げる存在。


 俺に話してくれたこともあったな。


 でも、記憶が消えていた。


 思い出そうともしていなかったからな。


 俺も、も。


「お前、何しに来たのか?」


 俺の記憶が正しければ、こいつは都会へ上京していたはずだ。


「戻ってきたんだよ。会いたかったからね。快凪にも、海里にも」


 俺は、よく殴りかからなかったなと思う。


「お前っ、にしたことを忘れたのかよっ」


「覚えているよ? 泣き顔も可愛かったね? あっ、お前って呼ばないでよ。俺にも名前があるんだから」


 勝手に誘拐紛いなことをしておいて、知らんぷりしていやがる。


 こいつが嫌いだ。


「名前って、何だっけ?」


「酷いなぁ。星凪だよ?」


 あー、そんな名前だったか。


「んで、星凪。用は?」


「会いたかったはダメ?」


「そんなはずはねーだろ」


 こいつは、普通じゃないほど重度のブラコン。


 愛情が歪んでいる。


「そうだね。あのさ、雷斗って海里と付き合ったんでしょ?だから、海里を取るって宣言しとこうと思って」


「は?」


 この時、俺は今までで一番低い声で圧を出していた。


「怖いな~。俺海里を好きでもいいでしょ?」


「...まあな。でも、海里を俺から取るのは違うだろ?、というか、何でお前は海里が好きなんだ?」


 ずっと気になっていた。


 こいつは快凪への愛の方が異常なほどに強いし、海里への執着より快凪への執着の方が異常に強い。


 だから、こいつが海里を好きだっていうのも、信用していないし、納得がいかない。


「あんな“かわいい”子が俺の言うこと命令を聞くと思ったら、そそるよね。他の人雷斗に取られているから余計にさ」


「は?」


 そんな理不尽な、自分勝手な理由で海里を好きになるな。


 外見だけ。


 俺は、星凪に向けた憎悪を吐き出すように、今までで一番引く声を吐き捨てて、星凪をにらんだ。

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