第1話:小田農園①
「健康被害なんか起きてないって何度もお客さんに説明したんだけど……申し訳ない」
段ボールを抱えて、申し訳なさそうに店長は私に頭を下げる。
段ボールの中には、お母さんと一緒に丁寧にひとつ、ひとつ袋詰めしたうちの玉ねぎがぎっしりと詰まっている。
「……いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」
私は店長から段ボールを受け取る。ズシッとした重みに腰と心が堪える。これはほとんど売れ残ったのだろう。
三日前、いつもうちの野菜を卸していたスーパーへ玉ねぎを出荷した。久しぶりにお店にうちの玉ねぎが並んだ。長かった、ようやくここまで戻ってこれたんだ。
なのに――
「鳩子ちゃんのところとは、うちのじいちゃんの代からの付き合いなのに力になれなくて本当に申し訳ない」
店長、もとい昔から家族ぐるみで付き合いのある健おじさんは何度も私に頭を下げる。
その表情を見て、益々いたたまれない気持ちになる。
謝るのはこっちの方なのに。
「口に入るものだからやっぱり不安を感じる人がいるのは仕方ないよ」
スーパーの業者出入り口から出て、軽トラックに戻る。
荷台に玉ねぎの入った段ボールを置いて運転席に乗り込もうとした時だった。
「あのトラック、やっぱりそうだわ」
「小田農園ってほら……いやね、ここで野菜を買うの止めようかしら」
ひそひそと話し声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、スーパーの買い物客と目が合う。
煙たがるような憐れむような目で私のことを見ていた。
私は早々にトラックに乗り込み、エンジンをかけ、逃げるようにスーパーを後にした。
フロントガラスにぽつりと水滴が落ちる。
「はぁ……大降りになる前に急がなきゃ」
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