伝承〜原初にまつわる伝説とその予兆〜

恥目司

焚き火の前

 さて、突然だが私の役割は観測者だ。

 役割といっても、仕事ではなくただの趣味というものだと思ってくれ。


 それで話というのはだな、原初というのは地球の抑止力というものの上で成り立つシステムであるという事だ。


 今回の件で転生者が現れた事によって地球の中に溜まった残された自然神代の神秘が貪られている。


 星のもつ理が崩壊するのも確かにあるさ。

 実際、地球で証明できない不可解な異常現象が2%から14%に上がっているからな。


 だが、そんなのは些末なものにすぎない。


 科学では証明できない現象は必ず何かしらの方法を使って対処ができる。

 多次元であろうとも宇宙に存在する法則の領域外になる事はないんだ。

 それが魔術であろうと、呪いであろうとも。


 では一体何が問題なのか。

 答えは神秘の完全消失。

 神秘というのは過去の蓄積、土地の神格化、人の崇拝によって創り出されるものだ。

 言ってしまえば“架空でありながら、遥か昔から存在したもの”。

 国を挙げて神を崇め、奇跡を眺め、不死を求めて魔術を極めようとした。

 でも、結局は不可能だった。

 決して至る事が出来ないとされてしまった。


 神や悪魔なんてものは存在するはずが無いし、魔法があるわけなんてない。

 近代以降になって人々はそう捉えてしまった。

 その時点で神秘の蓄積は終わった。


 今も神を崇拝をする者がいても、相対的にはスマートフォンを眺めている人間の方が多い。

 魔術よりデジタルの技術を追い求める人間の方が多い。

 奇跡より核ミサイルで簡単に人間を平伏させられる。


 神は死んだのではなく元からいない。

 この考えに囚われた今、神秘が完全に消えてしまえばこの世界に刻まれた過去が消えてしまう。

 おそらく中世前期までは綺麗さっぱり消えてしまうだろうな。

 そして、連鎖的に人間の歩んだ過去が消えこれから歩む未来までもが消える。


 みんな跡形もなく消えるんだ。


 古代から続いてきた神秘は停止した。

 だが、神秘の蓄積は止まっただけで神秘が減る事がなかった。扱う人間がいなかったから。

 しかし、次元衝突により魔力が浪費されていけば神秘はすぐに消える。


 ……おっと、もうそろそろ夜が明ける。

 少し見せたい物があるから、夜明けに出発だ。

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