第115話 反響:日米友好なんちゃら
※本日は2話更新。こちらは1話目。
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「やあみんな帰って来たよ! 元気にしてたかい!?」
・やあニック
・おかえり
・ほぼ毎日配信していたから久しぶりではないね
・母国での配信は久しぶりだ
『推し』を追いかけて日本旅行していたライブストリーマーのニックは、到着した地元ロサンゼルスの空港で、さっそく配信用カメラを起動させていた。
長時間フライトでの疲労も、配信を始めてしまえばどこかへ吹っ飛んでしまう――つくづくライブストリーマーは自分の天職だと思う。
・バカンスはどうだった?
・ライブではレンに会えていなかったが、プライベートで会えたのかい?
「!!!! ……会えなかったよ、ああ、遠くから見るだけで終わったさ……」
ガックリと肩を落とすニックをリスナーたちが慰めてくれる。
「ニンジャ……ニンジャのガードがいつも完璧でね。マネージャーのエトウも鉄壁さ……僕が肉眼で遠野蓮を見られたのは、特別討伐クエストの1階層だけだった」
あの阿鼻叫喚の状況――
四ツ谷ダンジョンが強襲された際、ニックもあの場にいた。戦闘能力はほぼ無いに等しいので配信用カメラを
「あのニンジャ【シュラ】に助けられたのさ! 実にアメイジングな戦闘だったよ!」
・彼も活躍していたね
・〝彼〟じゃない〝彼女〟だ
・レンとどちらが強いと見る?
「それはさすがにレンだね!」
ニックは即答する。
「ああ、シュラも素晴らしい戦士だったよ? どこかレンにも通じる、無駄をそぎ落としたスマートな戦闘挙動だった。体術だけなら良い勝負だろうが、魔法が絡めば明確に差が出るだろう――あのシュラはダンジョンがメインステージじゃないんだろうね。たとえば…………」
解説を始めると、リスナーたちは熱心に聞き入ってくれる。
これでもニックはダンジョン配信の解説で人気を博したライブストリーマーなのだから。……なぜか最近はコメディアンのような扱いを受けることがあるが。
「おいおいニック!」
と、画面外から声がかかる。
・おや? 今のは?
・誰かと一緒なのかい?
「ああそうさ。スペシャルゲストだ……!」
「どもー! リスナーの皆さん、【りりさく】の朔でーっす」
・知っていたよ
・だろうね
・君たちのSNSに何度も投稿されていたからね
「あ、あれ……? あんまり喜ばれてないような?」
「ハッハッハ、まあまあ……まあまあ」
「フォローもなし……?」
軽くショックを受けている朔のことはともかく、
「僕がサクを連れてきたのには理由があるんだ」
・まさかコンビを組むのかい?
・2人組のコメディアン・ストリーマーを目指すか
「おいおい違うよ!? 僕らはこんなに真面目で熱心なダンジョン配信者とその解説者だというのに!」
・では何が目的なんだ
・アイビスのL.A.支社を作ると見た
「それも楽しそうだけれどね、もっとビッグなことさ!!」
「ビッグだぜ!」
「僕たちは……ホワイトハウスに突撃するのさ!!!」
・Oh!?
・ホワイトハウスだって!?
・それまマズいよ
・とうとうテロリストになるのか
・R.I.P. ニック&サク
「提案するんだよ政府に、アイビスの配信者を招聘するようにさ! いいかい、未開ダンジョンの攻略というのは国益に通じるのさ。あの特別討伐クエストは、ほとんど攻略初期といっていい混沌具合だっただろう? つまり、米国内の開拓中ダンジョン――リスポーン機能は最低限でも設置済みであることが条件だろうけども――、そこをアイビスのメンバーに攻略してもらうのさ!」
・なんということを考えるんだ
・難しい
・地元のダンジョン配信者でも許可されないのに、そんな提案が通るのかい?
「だからこその実績さ! 先日の配信は世界中が注目していた……他国に先を越される前に、我が国にまず彼らを招待するんだ!」
・こちらの配信者たちが黙っていないだろうね
・衝突があるだろう
・それも見てみたいね、刺激的だろう
「だろう!? 交渉する価値はあると思うのさ! そのために日本から同行してもらったのが――」
「俺ってわけ!」
朔がサムズアップとウインクでリスナーたちにアピールする。シャイな日本人にしては積極的なスタイルだ。
・サクには荷が重いね:D
・なぜ彼を連れてきたのか、理解に苦しむね!
・lol
「ちょっ!? もしかして俺、イジられてる」
・イエス、だよサク
・LoL
・強く生きるんだ、この交渉で死ぬかもしれないが
「えっ。やっぱそんなにヤバイ? ホワイトハウス……」
・命懸けにはなるね
・我々のエンターテインメントのために命を懸けてくれサク!
・さすがだね!
「ひぃいいい……っ?」
「任せてくれよサク! 散るときは僕も一緒さ!」
「や、やっぱ帰っても――」
・ありがとうサク!
・華々しく散ってくるんだニック!
「ヨーシ、さっそくワシントンD.C.へのチケットを手配しなければね!」
「に、日本行きの……」
「ワクワクが止まらないね!」
青ざめる朔を引きずって、ニックは次なる使命のために動き出したのだった。
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