第112話 旅行テンション


 ■ ■ ■



 木更津ダンジョンでのテイマー練習はなかなかの成果が得られた。

 結乃の水魔法は、思惑どおり媒介としての役割を果たすことができた。もちろん、これからもっと訓練が必要だけれども。


 彼女本人もヤル気にみなぎっているし、蓮としてもこれからのレッスンにより力が入るというものだ。



 ダンジョンでの配信を終えた一行は、今日はホテルではなく外で夕食をとった。地元の美味しい魚介類に舌鼓を打って――みんな意外と、ダンジョン内のモンスターとは別物だと割り切ることができて――、満足のまま部屋に戻ってきた。


「う~、もうお腹いっぱいだ~」

「梨々香ちゃん、たくさん食べてましたもんね」

「結乃ちゃんこそー」

「もう立てませんね……」


 ソファに座ってまったりとする2人に衛藤が、

 

「お風呂どうなさいます? 大浴場に行くのが面倒だったら内湯もありますよ?」


 このスイートルームには、オーシャンビューの内湯も付いている。大人が2人でもゆったりと入れる広さの温泉だ。


「あ、そうしよ~。結乃ちゃんあとで一緒に入ろ~?」

「2人で? ちょっと恥ずかしいですね……!」


 そんな女子トークを聞きながら蓮は、こんなときに騒ぎそうなシイナに、


「シイナ先輩、私も入るとか言い出すかと思ったけど」

「…………いい。きのう入ったから……、梨々香ちゃんの裸は、私には刺激が強すぎる……裸見られるのも……キャパオーバー……」

「なるほど」


 遠い目をするシイナは、幸せそうな、それでいて自分のふがいなさを嘆くような複雑な表情をしていた。

 気持ちは少しわかる。


「レンレンも一緒に入る~?」

「……入らない」


 梨々香の場合はノリなのか本気なのか判別がつかないので、一応ちゃんと断っておく。

 しかし結乃も頬を赤らめて、


「れ、蓮くんも……」

「え」

「一緒に……は、いつでも入れるよね。えへへ。またあとでね」

「ま、まあ。うん」


 蓮も変な顔をしてしまっていたのだろう、


「遠野蓮、残念そう……」

「そんなことない」


 こちらもきっぱり否定しておく。

 向こうでは大人組も、


「こうなったらサキ、ボクたちも一緒に入るしかないね」

「そんな必然性はどこにもありません。一人で入って」


 いつものようにあしらう衛藤を見ていたシイナが、何を思ったのか、


「…………じゃ、じゃあ、遠野蓮は、私と……入る?」

「はぁっっ!?」

「う、うそ……ジョーク……、だし……」


 どこまで本気だったのか、たぶん本当にギャグのつもりだったんだろうけど――何にせよ慣れないことを口走ったシイナは両手で顔を覆って、その白い肌を耳まで真っ赤にしていた。






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