第68話 ダンス(後編)
れんゆのカップル配信にお邪魔しているカナミと麗奈。
今夜のダンス配信は、シイナ対策という建前で提案した。とはいえフォークダンスの練習が戦闘に役立つとは誰も本気で思っていない。
蓮は最初悩んでいたが、彼なりに『配信のネタ』になると考えたようで、しばらくして提案を受け入れた――配信業としてのプロ意識が強くなっているらしく、そういう成長も弟を見ているようで楽しくなる。
カナミが先導して、
「社交ダンスで慣れてる麗奈が先生だよね」
「麗奈ちゃんよろしくね」
「よろしく……」
「い、一生懸命つとめますわ……!」
・がんばれレイナちゃん
・ふんす!
・お嬢さま可愛い
・頑張るぞい!
高校では、体育祭の練習が始まっている。
フォークダンスの課題曲と振り付けは決まっていて、1度だけ授業で通して踊っている。
その振り付けを麗奈が完璧に再現して蓮に教える。エスコート役のパートも、パートナー側の動きも。
・フォークダンスとか懐かしいな
・蓮くんさんなら一発で覚えそう
・お姉様たちを簡単にあしらいそうだね
たしかに、蓮の物覚えの早さは目を見張るものがある。複雑なステップもすぐにマスターして、すぐに麗奈と同レベルにまで達した。
「中1くん、マジで完璧じゃん」
「とっても教え甲斐がありますわ。簡単に追いつかれてしまうのは複雑ですけれど」
「ふふん、だって蓮くんだもん」
・ゆのちゃんがドヤってるww
・彼ピ自慢かな?
・親バカじゃないか?w
・普通に優秀だからしゃーない
・女子3人も仲良さそうでいいね
蓮の飲み込みの早さのおかげで、単体練習もそこそこに、音楽を付けて踊ってみようということになった。
エスコート役は蓮だけで、結乃・カナミ・麗奈が代わる代わる蓮の相手を務める方式だ。
・ほほう? ハーレムかな?
・蓮くんそこ代われ
・私も蓮くんと踊りたい!
・身長差、いいね
「それでは流しますわ」
まずはれんゆのからスタート。そのあいだ、カナミと麗奈は見守り役だ。
音楽が始まり、蓮と結乃が向かい合って手を取る。蓮が見上げて、結乃が慈愛の籠もったまなざしで見つめ返す。
「カップルかよ」
「カップルです。尊いですわ……」
・レイナちゃん、うっとりしとるw
・カプ厨だったか
・どこかのマネージャーみたいだねw
・いつか鼻血とか出しそう
身長差があるから、蓮が結乃を一回転させるときはどうしてもぎこちない動きになるが、それ以外は初めてにしては上出来だ。
「んじゃ次ね」
カナミの番だ。
蓮の手を取る。運動していたからか緊張のせいなのか、蓮の手のひらは汗ばんでいて、本人もそれを気にして、
「ご、ごめん――」
目を逸らす。
「あは、照れてんじゃん」
からかいつつ、ダンスを終えて麗奈にバトンタッチ。麗奈と組んでも同じ調子で、
・蓮くんギクシャクw
・美少女JKと手を取ってダンスとか、誰でも緊張する
・私もこの3人とだとドキドキしそうw
・男子校出身のワイ、血涙を流してる……
・強く生きろw
1周して、また蓮と結乃のコンビに戻る。
「おかえり、蓮くん」
「た、ただいま」
・蓮くんのオアシスw
・やっぱゆのちゃんよ
「ねーねー麗奈、リスナーさんたちこんなこと言ってるけど?」
「まあ失礼ですわ」
麗奈もようやく緊張が解けてきたのか、2人でリスナーをからかう。
「私たちはモブか~」
「引き立て役なのですわね……」
・あっw
・ごめんなさい!w
・2人も可愛すぎるから! ね?
・じゃあカナミちゃんは俺がお相手しよう
・レイナお嬢さまは俺が
・お前らには無理やw
・どっちも高嶺の花なんだよなぁ
そして2周目。
蓮は、ふたたびカナミのもとに。ぎこちなく構える蓮の掌に手を合わせると、小さい手がビクッと反応する。
「まーだ緊張してるん?」
「べ、別に……!」
意地を張るところが面白くて、もっとつつきたくなる。リスナーのチャット欄も気になるし――
と、ウィンドウに視線をやったのがいけなかった。
慣れない動作のせいで、足がもつれた。
「っ!? やば――」
ステップの最中。
バランスを崩して横方向へと倒れそうになる。
このまま蓮と手を繋いでいたら彼を道連れにしてしまう。カナミは反射的に蓮の手を離そうとする――が、それまでビクビクと添えられるだけだった蓮の手が、逆に、強く握り返してきた。
「――――っ!?」
崩れたカナミの体重を下からグイッと支えて、乱れたステップにアドリブで足を合わせてくる。
完璧なフォロー。
「う、うそっ、マジ……!?」
そしてそのまま、何事もなかったかのように既定のダンスに戻る――いや、蓮のリードによって自然と、けれど強引に引き戻される。
「中1くん――」
驚いて見下ろす。
蓮は上気した顔のままこちらを見上げて、優しい声音で、
「足、ケガしてない?」
「う、うん……」
カナミはそう答えるだけで精一杯だった。
+ + +
今夜の配信はダンス練習のあと、4人で軽い雑談をして好評のまま終わった。
結乃と麗奈はスマホと三脚を片づけに掛かっている。それを手伝おうとしている蓮の腕を、ツンツンと突いて呼び止める。
「? なに?」
「あのさ。中1くんって結乃のことガチで好き?」
「はっ!? な、なに急に……!?」
驚きつつ蓮は声のトーンを落とし、チラチラと背後の結乃のほうを気にしている。
「……そういうのは、ちゃんと口に出しといたほうがいいよ。結乃のこと狙う男も増えてくるだろうし」
「そ、それは――」
「んでさ。中1くんのこと好きになる女も多いと思うからさ。改めて宣言しとくの、意外と大事ってこと。『自分には隙なんてないぞ』って、他の女に分からせとかないと。勘違いさせないようにもさ」
「う、うん……?」
納得できていなさそうな蓮の頭を、カナミはポンポンと叩いて、
「ほら片づけするよ」
努めていつもどおりの顔で、年下の王子様に笑いかける。けれど、両手には蓮の力強い感触がずっと残っていた。
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