第34話 反響:担任

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※本日は2話更新です(33~34話)。

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 1年2組の担任・金田羽美は午前中の授業を、どうにか普段通りを装って務め終えた。


 けれど職員室に戻ると、とうとう緊張の糸が切れてしまい、コーヒーカップを片手に生気のない顔でフラフラとさまよっていた。


「おや、金田先生。具合でも悪いんですか?」

「……え、ああ山本先生……」


 声をかけてきたのはベテラン教師の山本。定年間近の、ぽっちゃりとした人の良い男性教師だ。社会科の担当で、クラスの副担任でもある。


「寝不足ですか? 根を詰めすぎてはいけませんよ」

「はい、ありがとうございます……」


 昨日は仕事が忙しく、帰宅したときには22時を越えていた。だがそれくらいで疲れてしまう羽美ではない。


 一人暮らしの家事を終え、軽くトレーニングで汗を流し、熱いシャワーを浴びて……準備万端、とても楽しみにしていた『推しの配信』を開いた。


 は昼間にしか配信をしないので、もちろんリアルタイムではない。録画されたアーカイブを見たのだ。


 彼の活躍にも強い刺激を受けたが、それ以上に――


「……れんゆの…………」

「はい?」

「いいえ、なんでも……」


 最推しの配信者、遠野蓮の隣には、彼のパートナーが映っていた。とてもお似合いな、羽美から見てもとびきりの美少女だと思える女子高生が。


「ゆうべから、目がチカチカして、脳がギシギシと……」

「ええっ!? そ、それは大事おおごとなのでは? 病院には行きましたか!? 重大な疾患のおそれが――」

「……いいえ、原因はわかっているんですが。でも、どうしてこんな症状が出るのか……」


 蓮と結乃が並ぶ姿を思い出すと、どうしてこんな気持ちになるのだろう?

 羽美には、まったく見当がつかない。


「気分が悪いわけじゃないんです……私まで幸せな気分になって、祝福したい気持ちなのに……でも、脳が焼けるようで……、朝のホームルームのときは特に…………」

「救急車呼びましょうか!? なんなら知り合いの大学病院を紹介して――!」


 心配してくれる山本には申し訳ないが、どんな天才医師でもこれは治せそうになかった。それだけはわかっていた。


 症状が出てから、深夜にネット掲示板にも書き込んでみたが対処法は返ってこず、強く生きろと励まされただけだった――ただ、他にも似たような症状のリスナーは居たようで、同志がいることにはなぜか安堵した。


「ふふ……、あ、でもなんでしょう、だんだん良い気分になってきました……新しい扉を開けそうな……」

「せめてお休みを! 休暇を取ってください!? 教頭先生には私から言っておきますから!」

「いいえ生徒たちが待っていますので……フフ、胸の奥から、今までにないエネルギーが湧いてくる感覚が……真っ黒なのにキラキラ輝いていて、とても素敵で、甘美に瞬くお星さま★」

「保健室ーーッ!? 誰か手を貸してください! 彼女を保健室へ!」


 なぜかみるみると活力が湧いてきた羽美は、同僚たちの心配をよそに、午後からも元気いっぱいで教壇に立ったのだった。





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第3章終了です!4章からは他の配信者との絡みも増える予定。

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