第17話 鋼鉄の鍋 視点ディッツ
あれから数ヶ月が過ぎた。
儂は魔都ハルピアの[森の若木亭]の隅で薄いエールを飲んでいた。
[鋼鉄の鍋]は、いや儂はグリフォン退治に失敗し、遺跡探索にも失敗した。
歴戦の仲間を失い、新たに仲間を募るにしても1人生き残った老ドワーフでは、なかなか難しい。
もちろん、おのぼりレベルの冒険者なら直ぐにでも叶うが商隊護衛やゴブリン退治では大金は掴めない。
老いて衰えてゆく儂は、その日暮らしは長くは続けられない。
そんな感じで儂は、また少しづつ借金を増やしながら日々を過ごしていた。
「ディッツの
店の主人が声をかけてくる。
「取り立てが来るにはまだ早いはずだがな」
儂は、そう答えたが信用を失った冒険者に金を貸してくれる金貸しは少ない。
目端の利く商人が債権を取りまとめて来ても不思議ではない。
以前、
「お久しぶりです。ディッツさん。奢りますよ。」
確かに珍しい客だった。
聖都で遺跡の話をしてくれたエルフだ。
確か名前は……そうローエルフとか名乗っていた。
「奢りは、ありがたいが何の用だ。せっかくだったが、遺跡探索は失敗した。」
「そうではなく、仕事の話です。ご主人小部屋借りますよ。後、濃いめのエールよろしく。」
そういうとエルフは銀貨を主人に放り儂を連れて小部屋に入った。
☆☆☆
「で、仕事の話とは何だ?」
小部屋に入ったエルフはエールを美味そうに飲み干すまで、何も喋らなかった。
「やっぱり、聖都よりハルピアのエールの方が美味いですね。至高神の教えのせいか味が悪い。」
聖都で飲んだ時も思ったが酒好きのエルフは珍しい。
「酒を飲むだけなら、小部屋でなくとも良いだろう?」
儂が指摘すると、エルフは改めてこちらを向いた。
「依頼が二つあります。」
「まず一つ。ムッカ島とムッカ島の研究所で見た事を全て話して下さい。どんな些細な事でも結構です。もちろん報酬はお支払いしますよ。そして話した事は他言無用にお願いします。」
「なんで、そんな事が知りたい?それに口止めまでするとは……」
そう尋ねはしたが、思い当たる節はあった。
聖王国のエルフが魔族の研究所の中身を知りたいなど理由は一つだ。
「お察しの通りですよ。稼働している魔族の研究所から生きて帰った人など、そうはいません。」
エルフは録音機能のある水晶魔道具を準備しながら言う。
「報酬は金貨6枚、内容によっては追加もお支払いします。」
「で、もう一つは?」
「[鋼鉄の鍋]に取りあえず仲間を何人か加え、常宿も[魅惑の伯爵夫人]に変更して欲しいです」
「聖王国の密偵になれってことか?」
「それはこちらで用意します」
つまりは[鋼鉄の鍋]を隠れ蓑にしたいと言う申し出だ。
「こちらは即金ではないですが、冒険者としての仕事と引退後の、ある程度の待遇は保証します」
儂はエールで喉を湿らせた後、島での出来事を委細漏らさず話始めた。
☆☆☆
エルフに連れられ、[魅惑の伯爵夫人]に入ると妙な話し方をする魔族に迎えられた。
デポトワール。
このハルピアの形式上の領主だ。
そしてカウンター席でワインを傾けていたポンコツに軽く会釈をされる。
流石に白衣は着ていない。
「プラティーン。プラティーンじゃないか!なんでまたハルピアに?」
ポニーテールの女戦士がテーブル席から立ち上がり話かけてきた。
女の隣には最近流行りの妖魔筒を持った若いダークエルフが座っている。
「もちろん、お酒を飲みに来たんだよ。フィーバーは死んだと聞いてだけど元気そうだね」
「任務中行方不明ってやつさ。傭兵にはじゃ良くあることさ。」
「そうだね。ハイレンも行方不明になってるよ。トロールにさらわれたみたい。」
奇妙な会話をしているが、2人共笑っている。
どうやら旧知の仲らしい。
「フィーバーは冒険者してるんだろ?私の知り合いを2人紹介したいけど良いかな?」
「ブライ、構わないかい?」
「フィーバーが良いなら構わない。」
その後、借りた小部屋で自己紹介をしてエルフの連れてきたスカウトとフィーバーと言う女戦士、ブライと言うダークエルフが[鋼鉄の鍋]の仲間になった。
聖王国、緊急事態省、特務班[鋼鉄の鍋]
儂は、まだ老骨に鞭打って過ごさねばならないらしい。
完
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