第5話 1F 視点ボルドー

泉を廻り込み、遺跡の前まで来た。


魔術師ルースが資料を集めて来ていたエルフが残したという木造の建物は跡形も無く、転生者が魔族にもたらしたと言うコンクリト製の建物で、入口の扉は開いている。

屋根にはガーゴイルが居たと思われる台座が4つあった。


「地上1階、地下は4階。1階は倉庫だったらしい。魔族の古酒でもありゃ金になるんだがな。」

ドワーフでリーダーのディッツが資料を見ながら話す。


「ディッツさん。どこでそれを?」

ルースが木造資料をしまい込みながら尋ねる。


「ハルピアだ。魔族関連の資料漁るなら、ハルピアの古書がありそうな所を漁るのは基本だ。」

遺跡探索は資料を漁れ。

前に商会で知り合った冒険者のリーダーがそんな事を言っていた。

[田舎者達]とか言ったパーティだったが生き延びているだろうか?


「ルース、その仕舞い込んだ資料は焚き付けにでもすんだな」

盗賊ラアナが意地悪く笑い。

1人、入口に向かってゆく。

しばらく辺りを這い回った後、中に入り、さらに、しばらく後に合図を寄越す。


「クリアだ。ここしばらく誰も、ここからは出入りしてない。」


「ここからは?」

司祭フォニが疑問を返す。


「地下から振動音がするが、ここはただの倉庫で腐った樽やボロい船具しかねぇ。しかも地下に降りる階段もねぇ。」

中は真っ暗でだだっ広い空間が広がっている。

ランタンに火を入れて全員で中に入る。


「そうか、ディッツの旦那以外は灯りがいるか。」

ドワーフには先天的な暗視能力があり、明りはいらない。


「ラアナは見えるのか?ドワーフなのか?」

戦士チカカが尋ねるとラアナは鼻で笑う。


「田舎者は知らないだろうが、魔導具ってもんがあんだよ。それともアンタの頭はアタイと旦那の区別もつかねえのか?」


「僕を馬鹿にするな!」

教育を受けていないチカカが物を知らないのは当たり前の事だ。

多分字も読めないだろう。

だが大半の冒険者はそうだ。


そうしていると、ルースが声をかけてくる。


「この床、転移陣が描かれてますね。」

倉庫の隅の方に小部屋があり、壁には薄い四角い箱状の物が取り付けられている。


「[セーフモード解除]」

ルースが魔族語で何か囁いた。

すると箱の黒かった側面に文字が浮き出る。


[ムッカ研究所へようこそ]

[所員は所定のコードを入力してください]

[ゲストの方はB2の受付にて短期コードを発行してもらってください]

[見学の方はB1にて手続きをお願いします。]


魔族語の文字と魔族語らしき音声が流れる。

「なんて言ったんだ?なんて書いてあるんだ?」

チカカがルースに尋ねる。


「どうやらタッチパネルにコードを入力する必要があるみたいです。」


「タッチパネルとは?」

フォニもルースに質問をする。


「えー、この黒い部分がそうで決められた魔族文字を入力すると、転移陣が作動する仕掛けですね。」


「ルース、コードとやらは分かるかい?」

ラアナまでルースに問いかける。


「わかりませんよ。ディッツさんの資料に何かないですか?」


「[見学用コード]とやらが走り書きされているな」

ドワーフが資料をルースに渡す。

資料には魔族文字がビッシリと書かれている。

ルースが手早くタッチパネルに文字を入力してゆく。


「おい、ルース。ちょっと待て、入力は準備してから……」

ラアナが声をかけるが……。


[コード確認しました。転移を開始します。]

魔族語で何か音声が流れ、我々は転移した。

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