第4話 水浴び 視点ボルドー
「ボルドーの旦那、見張りとはいえ緊張し過ぎだ。振り向いてもいんだぜ?見るぐらいなら減りゃしないからな。」
ラアナから砕けた感じで声がかかった。
日が暮れ始めテントが組み上がり、ドワーフのディッツと魔術師ルースは食事の準備をしている。
そして、
私は見張りとして、泉に背を向けて座っている。
「減る。尊厳や価値が。」
「僕も振り向かないで欲しい。」
フォニとチカカは貞節という概念を持っているらしい。
「ま、付け馬が種馬になられても面倒くさいか?」
ラアナが笑いながら、わざとらしく水音をたてる。
男女の若い冒険者が関係を持つ事は珍しくないが、痴情のもつれから連携が取れずに死んだり、中には殺害したりすることもあると言う。
「あれ〜、助けて〜ってな」
ラアナの場合は間違いなく、からかっているのだろうが。
「おい、旦那!振り向け、マジだ!上を見ろ!」
突然、声が切迫し水音が激しくなる。
「チカカ!ディッツの旦那を呼んで来い!フォニはメイスで迎撃。糞!アタイの短剣じゃ話にならねぇ!」
振り向くと全裸の3人が岸辺に向かい走って来ていた。
そして上空から翼の生えた石像が3体滑空し、こちらに向かってきている。
[ガーゴイル]
魔族の造った自律型ストーンゴーレムの一種で知能があり飛行能力を持つ。
商会で習ったそんな知識を思い浮かべながら、私は剣を抜き、先頭のガーゴイルが襲いかかってくる瞬間、カウンターで剣を振るう。
硬い。
凄い音がして、手が痺れる。
そして、こちらは革鎧と肩の肉の一部を鋭い爪で持っていかれた。
残り2体は、それぞれラアナとフォニを襲っている。
チカカは、その少年の様な肢体を晒したままテントの方に走っていった。
痺れた腕で何とか剣を振るうが、有効な攻撃にならない。
「交易の神よ、気弾で、ガーゴイルを、撃て!」(使用2残2)
剣では有効な攻撃が出来ないと見て、神聖魔法の攻撃に切り替える。
ラアナは鍛えられた肉体を晒しながら、短剣で攻撃を捌く事に専念していて膠着状態。
フォニは着痩せするタイプらしく、豊かな胸を揺らしながらメイスを確実に振るうが、ガーゴイルに入れたヒビと同じぐらい、本人も血だらけだ。
「ヌゥオオ!」
しばらく膠着が続いたが、ドワーフが雄叫びと共に戦斧を持って突っ込んで来た。
それに合わせラアナは下がる。
「魔力の礫」(使2残4)
飛翔してきた魔力の塊がフォニの前のガーゴイルを砕いた。
それから少しの攻防を経て、ガーゴイルをただの石塊に戻す事が出来た。
夜。
傷の治療と食事を終え、交代で夜営についている。
神力、魔力の回復を考えれば私とルース、フォニは夜営無しで眠りたいが1人夜営は危険過ぎる。
「チカカさんが全裸で駆け込んで来た時は驚きましたよ。」
戦闘の興奮と旅の禁欲から、しばらく前の収まりがつかなくて困った。
「しかし、ディッツさんの発案らしいですよ。油断してると見せて襲撃を誘ったのは。」
耳を疑った。
女性陣が水浴びをしていたのは、わざとなのか?
「ディッツさんが、予想していたのは魔獣ハーピーだったので、ラアナさんは悪態ついてましたがね。」
あのドワーフやはり一筋縄ではいかない。
しかし、それほどの冒険者でも、ちょっとした不運で資金繰りに困りハイリスクな遺跡探索に挑まなくてはならなくなる。
ラアナには私に被せて説明していたが、メンバーを厳選したのは、あのドワーフだ。
私は借金持ちの冒険者リストを提示したに過ぎない。
ドワーフを妖魔と言う者もいる。
油断は出来ない。
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