第3話 別れ
寒くとも穏やかな日々が過ぎていく。
食と住の心配は減り、命の危機はなくなって安心出来る状況なのだが、ティはいつも外を気にし、浮かない顔をしていた。
皆といる時にはそういう素振りを見せないようにとしているようだが、一人でいる時などにふと憂いた様子をしている。
(一緒に居た人がどうなったのか、気になるわよね……)
その様子を人知れず見ていたミューズはティに気持ちを思うと胸が痛くなっていた。
シグルドも街で情報を集めているが、該当するような人物は見つけられなかったと聞く。
「あいつらは俺よりも賢いから遭難なんてしないはずだ。だがしは何の手掛かりもないとは……」
シグルドの話を聞いてティはポツリとそう零す。
見えない不安からか、ティはやがて暗い表情を隠すことも出来ず、俯きがちになってしまう。
ミューズとレナンはそんなティに寄り添い、励まし続けた。
「大丈夫、きっと無事でいるわ。ティのようにどこかで休んでいるのだと思うわ」
「ええ、きっとそうよ。ねぇ皆でお祈りしない? すぐ会えるようにって」
そういってお守りを作ったり、お星さまに祈ったりする。
一緒に悩み、考えてくれる二人にティは微笑んだ。
「二人共、ありがとう」
とても熊とは思えない、人間らしい笑みだ。
そうして二人と一頭は仲を深めていく。
そんな様子に浮かない顔をするのはシグルド達だ。
「……いつまでも匿うのは難しいな」
楽しそうな三人を見て、シグルドとディエスは残念そうに呻く。
「ええ。彼の素性を知ったからには、尚更ここに置いておくには危険すぎます」
二人は暗い顔だ。
楽しい日々は間もなく終わりとなる。
◇◇◇
「もうここを出ていってしまうの?」
その話を聞いてミューズはがっかりしてしまう。
「彼は呪いを掛けられた、人間だ。暖かくなり雪がなくなったのだから、すぐに妖精を探さなくてはならないからね」
ディエスは説得するように話す。
「それなら私達も手伝うわ」
「質の悪いイタズラを掛けるような妖精だ、ミューズ達をそんな危険な目に合わせられない。それに二人はもうすぐスフォリア領に帰らないといけないだろうが」
そう言われ、二人はしょぼんとする。
「二人ももうそろそろ結婚相手を決めなくてはいけないから、いつまでもここに滞在してはいられない。それにティ殿の邪魔をしてしまうかもしれないだろ? 余計な事はしてはいけないぞ」
二人は俯く。
足手まといとはわかっているが、それでも力になりたかった。
それに家には帰りたくないし、知らない者との婚約も考えたくはなかった。
「二人とも俺の為にありがとう、だけど、気持ちだけで充分だ」
大きな肉球に背を撫でられ、思わずミューズは泣いてしまう。
「また、会えるよね?」
「会えるさ。だからお元気で」
グスグスと鼻をすするレナンも小指を出す。
「元の姿に戻ったら絶対に教えてね、約束よ」
「ああ、約束する」
ふさふさの手にはレナンの細い小指は当然回せなく、そっと触れるだけにし、ティは屋敷を出ていった。
唐突の別れに二人は思わず泣いてしまい、ディエスとリリュシーヌが二人を抱きしめ、慰める。
仕方がない別れとは言え、心が痛い。
(急ではあるが、素性が素性だ。それに最近は暖かくなってきた。頑張れば国に帰れるだろう)
昨夜ティと話し合いもしたが、彼もそろそろこの屋敷を出る算段をしていたそうだ。
「あまり長居すると、ここを出る決意が鈍りそうですしね」
それにはぐれた共の事も心配だと言っていた。
何かあればまた立ち寄るようにシグルドは行ったが、恐らくティはもうこの屋敷には来ないだろう。
彼の立場上難しい事だから。
◇◇◇
(居心地の良い所であったな)
でも立場と、そして、共の事を思えばあそこに長居する事は出来ない。
(皆が無事でありますように……)
シグルドの治める街にいなかったのは恐らく反対方向に行ったからだとは思うが、彼らもまた妖精の犠牲を受けてないとは限らない。
そうであるだけならばいいが、もしも命を落とすような事になっていれば、妖精を許すことは出来ない。
(その時は何が何でも見つけて殺してやる!)
グルルとうめき声をあげ、雪が溶けて間もない森へと乗り込んでいった。
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