第34話 堪忍な

 空間認識能力があって良かった。そのまま平面でもインプットしたのでコンテを歩くのは楽勝だった。衣装も体操服だったのが幸いし、すぐに準備が出来た。


 ただ、衰えた筋肉にトランペットはギリギリだった。バズーカチューバだったら落としていた。


 本番前日、場当たりで会場に向かった。一回学校に帰り、演奏動画を見た後に壮行会そうこうかいとなった。僕は音楽室の外の隅ではれた足を氷で冷やした。


「痛いな、痛いよな」


「坂下先生」


「こんな状態で俺が監督やったらやめとけ言うわ」


「ま、これくらい」


堪忍かんにんな、明日だけどうか頑張ってくれ」

 坂下先生は鼻をすすりだした。


「大人はな、子どもを使うんや。子どもで商売してる。そんなんは運動部で監督してたから分かってる。そんなんはあるんや、でも重傷の子どもを使わな出れんのや」


 それが情けない。ごめんな、ごめんな。


「確かに重傷ですけど、歩く分には大丈夫です。それにここがで学校に使われることは想像していましたし、いまさら何がどうなったって、構いません。もう少し冷やします。先生もはよ部屋戻って、こっちに誰も来ないようにして下さい」

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