第3話 違和感
「図書室はたしか三階だったっけ?」
少しだけ落ち着きを取り戻した僕は図書室に向かっていた。
「出雲君!大丈夫!?」
図書室に向かっていると廊下で慌てた様子の雪野さんに出会った。
「どうしたの雪野さん?図書室で待ってるんじゃ?」
わざわざ廊下で待つ理由が分からず首を傾げてしまう。
「凄く顔色が悪い出雲君が図書室に来るのが視えたから心配でさ」
「なるほど、未来を視たからか……」
それはそうと僕は今心配されるほどの表情をしているのか……
「出雲君が私を置いていかないか不安でさ」
雪野さんは少し不安そうな顔で僕には実現不可能なことを口にする。
「そんなことより!何があったの?」
「特に何もなかったよ剛力君も平気そうだったし!」
僕は真剣な顔をする雪野さんにぎこちない笑顔でそう答える。
結城君のことは言いたくなかった。
「……ならいいけど。相談したいことがあったら言ってね」
雪野さんは不満げな表情をしているがありがたいことにこれ以上追求する気はないようだ。
「じゃあまずは図書室から行こっか!」
すぐに明るい表情に戻った雪野さんは僕の手を引いて図書室に向かう。
「ゆ、雪野さん!?」
さっきまでの暗い気持ちが吹き飛んだ僕は手を引かれるままに図書室に入る。
「……広いな!それに本棚も多い」
図書室に入って思わず口にした感想はそれだった。
「凄く広いよね!何冊ぐらいあるんだろうね?」
そんな疑問が生じるほど広くて3階から4階にかけて螺旋状につくられている。
「少し見て回っていいかな?」
「もちろん!私もさっき借りました!」
そう言って借りた本を見せてくる。……タイトル的に恋愛ものだろうか?
「出雲君はどんな本が好きなの?」
「僕はミステリーが好きかな。考えもしなかった能力が組み合わさって難解な謎として立ちふさがるのはまるで世界を相手にしているようでワクワクするんだ」
少し話し過ぎた僕に雪野さんは笑顔で耳を傾けてくれていた。
「やっぱりその表情の方がいいね」
「そう……かな?ありがとう」
気恥ずかしくなった僕らは別々の本棚に視線を送る。
「あ、えっとミステリーはあっちの方にあったから……」
「分かった、ありがとう」
僕は逃げるように雪野さんが指さした方に小走りで向かう。
「反則だろ」
僕の良くない点に対して太陽のような笑顔を向けてくれる雪野さんに赤くなった顔を手で隠しながら僕はそう呟いた。
「これ確か……400年ぐらい前の本じゃなかったか?」
ふと目に留まった古い本を手に取ってパラパラめくる。
「
柔らかく優しい声の主の方に顔を向けて視線を下に落とす。
そこには綺麗な水色の長い髪に透き通るような紫色の目を輝かせながら一冊の本を両手で抱える小動物のような女の子がいた。
「いや、名前を知っている程度で……」
「では、ここで手に取ったのも何かの縁です!是非読んであげてください」
可愛らしくニッコリ微笑みながらそう勧めてくる。
「そうだね、せっかくだし読んでみようかな」
「それがいいです。あ、あとこの本がおすすめなので是非読んでください!」
女の子はそう言い抱えていた本を手渡してくる。
「君が読むんじゃないの?」
「私は一度読んだことがあるので大丈夫です」
何で読んだことがある本を持っているのかは不明だがそういうことなら受け取っておく。
「信託の記憶?聞いたことがないな……どんな話なのかな?」
「この本は外国の本でしてタイトルは〝メモリー”といいます」
「当て字ってことか」
「そうゆうことです。このお話はですね空白の300年を生きた作者によって書かれた。という設定のお話です」
「空白の300年?つまり都市伝説の話ということかな」
そう言うと水色の髪の女の子はグイっと距離を詰める。
「それは少し違います!空白の300年でよく言われる人類の半分以上が滅んだという設定を活かしたものでして…………」
女の子はスイッチが入ったのか目をキラキラ輝かせてぴょこぴょこと距離を詰めながら話し続ける。
それにしても……身振り手振りで魅力を伝える仕草は愛嬌がある。
そしてなにより良い表情をする。
「つまりですね!今と異なる世界観が魅力なわけです」
少女は満足げにそう締めくくった。
「話しが上手だね。読んでみたくなったよ。これも借りることにするね」
「是非そうしてください!」
ありがとう。とお礼を言って受付に向かおうとすると水色の髪の女の子から再び声をかけられる。
「大成君、私は図書室によく居るのでよかったら感想を聞かせてください」
水色の髪の女の子はそう言って寂しそうに手を振りながら立ち去っていった。
「律儀な人だ……な?」
不意に出た呟きはある疑問と悪寒に邪魔された。……名前言ったっけ?
「クラスは違う。知り合いじゃない……あの子が結城君に?いや、ついさっきの出来事だぞ有り得ない」
そういう能力なのかもしれないだろう?考えすぎだ、僕の悪い癖じゃないか。大丈夫――
「大丈夫じゃないじゃん出雲君」
「っ!」
慌てて顔を上げると呆れた様子で僕をジッと見つめる雪野さんが真横にいた。
「よく分からないけど一人でため込んじゃだめだからね出雲君。親とかちゃんと信頼できる人に言ってね。爆発してからじゃ遅いよ」
雪野さんの真剣な表情で伝えられた言葉は僕の涙腺を激しく刺激する。
「ありがとう。雪野さん」
泣きそうになるのを抑えて震える声でお礼を言う。
「高校で初めてできた友達が暗い顔でいるのは嫌だからね」
雪野さんはそう言ってニッコリと微笑む。
「ありがとう雪野さん」
落ち着きを取り戻した僕改めてお礼の言葉を口にする。
「役に立てたならよかっ……」
ここで雪野さんは考える仕草で固まる。
「良いこと思いついちゃった。お礼だと思って学校を回った後少し付き合ってよ出雲君」
「も、もちろんいいよ」
ちっともお礼と思えないむしろご褒美のような提案をすぐさま了解する。
「やった!」
雪野さんはそう言って嬉しそうにガッツポーズをする。
それを見て僕は高校は悪くないかもな。と少し思った。
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