スライムが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている!

えす

序章 少年の旅立ち

第1話 スライムしか仲間にならないんだけど!

 なんとスライムが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている!


 ──この瞬間。モンスターテイマーのタクトの中である推測が事実として確定した。


 モンスターテイマー。

 それはモンスターを【使役】する能力を持つ職業である。

 モンスターを倒すと、一定の確率で【仲間】にすることができるという特殊なスキルを発現する。どんなに凶暴で強いモンスターであっても仲間にすることができる可能性があるのだが、その反面、自身の能力はとても低いという特徴があった。


 タクトは生まれながらにしてモンスターテイマーの才能スキルを備え持っていた。

 彼には夢があった。

 育て上げたモンスターを競わせる大会【モンスターリーグ】。その最高峰である【マスターリーグ】で優勝し、チャンピオンになること。両親のような、立派なチャンピオンに……。


 しかし、彼には才能があるものの、一向にモンスターを仲間にすることができなかった。

 時に冒険者パーティーに入れてもらい、モンスターを倒し続けるも、仲間になるモンスターはいなかった。


 いや。一匹だけいた。

 そう、スライムである。


 タクトが住む地域にはスライムはいない。遭遇したのは偶然だった。

 放っておいても大した害はないが、低レベル冒険者の経験値稼ぎとして狩られ続ける哀しき存在。

 最弱モンスター。故にモンスターテイマーにも相手にされない。育てても特別な能力が発現するわけでもなく、モンスターリーグで見かけることも、まずなかった。


 とにかく、タクトは偶然に遭遇したスライムを倒した。いや、倒すつもりはなかったのだが、彼はその時むしゃくしゃしていた。何もかもがうまくいかない苛立ちを、スライムにぶつけたのだった。

 彼が蹴り上げたスライムは倒れ、そしてむくりと起き上がった。

 そして、仲間になりたそうにこちらを見ていたのだった。


 タクトはそのスライムを仲間にしてみたものの、当然弱かった。

 しかし彼にとっては初めての”相棒”。愛着を持って育てていった。


 その後も一向に、モンスターは仲間にならなかった。

 どうしてこのスライムは仲間になってくれたのだろうか。


 ──まさか。

 そんなことが、あるわけ……。


 タクトは自分の中のその仮説を否定するために、スライムが生息する地域へとやってきた。


 そして彼は、スライムを倒した。



 起き上がったスライムを見て、タクトは震えた。感動からではない。

 。その事実が、彼を震撼させた。


 タクトはそのスライムを仲間にせずに、次に現れたスライムを倒してみた。

 すると……スライムが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ていた。


 タクトは走った。叫びながら走って、ある場所へと向かった。


 とある丘の上にある小屋へ、タクトは駆け込んだ。

 中にいる、白髪の老人の背中に向かって彼は叫ぶように言った。



「ハカセ! スライムしか仲間にならないんだけど!」


 

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