第299話 イェーイ! これぞメテオストライクだね!

  日本の領海にクトゥルフ神話の侵略者が現れたとラミアスが告げた時、モニターに映るルーナは悔しがっていた。


『くっ、前に塞いだ穴を利用されたか。おのれ、ナイアルラトホテップめ』


「どうしてナイアルラトホテップの仕業だってわかるんだ?」


 ルーナはこの事態がナイアルラトホテップによるものと決めつけていたため、恭介はその理由を訊ねた。


 断定するということは、そうするだけの根拠があるからそれを聞いておきたいと思うのは不思議ではない。


『結界に穴を開けた力が、さっき3期パイロットと戦ってた時に感じた力と同じなんだ。つまり、奴が高天原には手を出せない代わりに地球に出し始めたってことだね。でも、奇妙なことに結界の穴をナイアルラトホテップは通ってないみたいだ。多分、ちょっかいをかけてるんだろうね』


「あっち嫌な神だな」


『ん? 今のは聞き間違いかな? あっちもって言ったよね? 一体誰のことを嫌な神だと思ってるのかな?』


「ルーナに決まってるだろ」


『あァァァんまりだァァアァ』


 一切躊躇することなく恭介が言い切ったから、ルーナはボケに走って悲しみを和らげた。


 ルーナにツッコんでいる場合じゃないから、恭介はラミアスに訊ねる。


「ラミアス、日本にどれだけの戦力が向かってる?」


『大半はC002ナイトゴーントとC007ティンダロスの猟犬の混成集団ですね。ですが、その後ろにC139シアエガとC140ニョグタが控えております』


「4期パイロットだけじゃ厳しいか」


『そう思います。グラディスからの連絡では既に4期パイロットは出撃したそうですが、雑魚モブだけならなんとかなっても単一個体の相手は厳しいから応援を送ってほしいとのことです』


 (そりゃそうだ。いくら新人戦で勝ったとしても、それはあくまで他の4期より強いってだけだ。どうしたものか…)


 4期パイロットだけでは単一個体に勝てるかどうかは怪しいし、そもそもスケープゴートチケットを持っていないから、下手をすれば4期パイロットが全滅する可能性は十分にある。


 瑞穂を動かして移動するには時間がかかってしまうから、自分と麗華だけで大気圏に突入するべきかと恭介が考えていたら、そこに沙耶が声をかける。


「兄さん、ここは私と晶さんが行くのが適任でしょう。ナイアルラトホテップが姿を見せてない以上、兄さんと麗華さんは自由に動けるようにしてた方が良いです。一応、ミラージュドレイクもメランコリーアスタロトも大気圏に単機で突入できるスペックはありますから、私達が行きます」


「…頼めるか?」


「はい。行きますよ、晶さん」


「りょ~かい」


 真剣に考えた結果、恭介も沙耶と同じ結論に至った。


 それゆえ、沙耶の意見を採用した。


 地球に現れた敵を倒しに行くだけならば、恭介と麗華だけで言った方が手っ取り早いのだが、一度大気圏に突入したら宇宙に戻って来るのに時間がかかる。


 久遠は宇宙に行ける程のスペックこそあれど、日本の領海にクトゥルフ神話の侵略者達が現れるようになった以上、今まで以上に日本を空けられなくなった。


 そうなると、日本に行ったらしばらく高天原に戻って来れないため、瑞穂の最高戦力である恭介とパートナーの麗華は気軽に出撃できない。


 本来ならば3期パイロットを派遣するところだが、先程の戦闘で精神的に参っている状態で大気圏に突入しろとはとてもではないが言えない。


 以上のことを考えれば、どうしても沙耶と晶が日本に向かうのがベターなのである。


 沙耶と晶がそれぞれミラージュドレイクとメランコリーアスタロトに乗り込んだら、ミラージュドレイクのモニターにルーナが現れる。


『ごめんね沙耶ちゃん。恭介君と離れ離れになるような結果になっちゃって』


「こんなタイミングでも煽るとは本当に嫌な神ですね」


『煽るつもりで言ったんじゃないから最後まで聞いて。私はね、明日奈ちゃんが溜め込んでたものを知って沙耶ちゃんのことも心配になったんだ。だって沙耶ちゃん、恭介君がいるから今も戦えてるでしょ?』


「…この状況で兄さんを困らせる訳にはいきません。私は私にできることをします」


 正直な気持ちを言えば、沙耶も恭介と離れるようなことはしたくない。


 それでも、沙耶は自分が動くことで恭介の力になれるならば、恭介から離れて感じる不安も我慢してみせると覚悟を決めたのだ。


 カタパルトまでミラージュドレイクが移動したところで、ラミアスのアナウンスが届く。


『無事をお祈りしております。進路クリア。ミラージュドレイク、発進どうぞ!』


「筧沙耶、ミラージュドレイク、発進します!」


 ミラージュドレイクがカタパルトから射出されたら、ラミアスは次のアナウンスを始める。


『沙耶さんをよろしくお願いします。進路クリア。メランコリーアスタロト、発進どうぞ!』


『尾根晶、メランコリーアスタロト、行きまーす!』


 メランコリーアスタロトもカタパルトから射出され、すぐにミラージュドレイクに追いついた。


 宇宙空間には沙耶と晶を邪魔する者はおらず、2人はすぐに大気圏に突入し始める。


「ギフト発動」


 晶が堅牢動盾シールドを発動して大きな盾を前方に展開すれば、沙耶はミラージュドレイクをメランコリーアスタロトの後ろにぴったり止せてそのまま大気圏を突っ切った。


 このやり方ならば、2人の機体への負担もかなり軽減できるのだ。


 地球に降りて4期パイロット4人がクトゥルフ神話の侵略者達と交戦しているのを捕捉し、沙耶はその後ろに控えるシアエガとニョグタを先に倒すべきだと判断する。


「晶さん、私達は単一個体をやりましょう」


『OK!』


 猛スピードで落下する晶は、そのエネルギーを利用して堅牢動盾シールドを発動したまま黒いアメーバ状のニョグタに突撃した。


 ニョグタは落下エネルギーで強化された突撃を受け、その体が弾け飛んで消えた。


『イェーイ! これぞメテオストライクだね!』


 晶が一撃でニョグタを倒して歓喜の声を上げている一方、沙耶はメテオストライクの途中でメランコリーアスタロトから離れてシアエガに攻撃を仕掛けていた。


 巨大な緑のモノアイを光らせ、無数の長い触手を生やしたシアエガはその触手でミラージュドレイクを叩き落とそうとする。


「その程度の攻撃で私に勝てると思わないで下さい。ギフト発動」


 未来幻視ヴィジョンでシアエガの攻撃パターンを見切り、沙耶は蛇腹剣形態のデストロイでシアエガの触手をどんどん切断していく。


 できるだけ根本から切断することにより、完全な姿に再生するのを遅らつつエネルギーを消費させているのだ。


 そして、見るからに弱点らしい緑のモノアイに琥珀鉤爪アンバークローで攻撃すれば、シアエガは悲鳴を上げる。


『くぁwせdrftgyふじこlp』


 声にならない悲鳴を上げた後、シアエガは力尽きた。


 その体が消えたのはルーナが回収したからのようで、沙耶と晶のゴーレムのモニターにルーナが現れる。


『流石は沙耶ちゃんと晶君だね。2人が倒した単一個体は私が回収して、情報収集に役立てさせてもらうよ』


「それも大事ですが、結界をなんとかできないんですか?」


『そうだよ。ルーナのセキュリティがガバガバなせいで、僕達は地球に来たんだからどうにかしてほしいね』


『誰の穴がガバガバだって? 失礼しちゃうなもう!』


 サラッと下ネタを言うルーナに沙耶が冷ややかな視線を向ける。


「最低です」


『言っとくけど、僕はそんな意図で言ってないからね?』


 晶はどちらかと言えば沙耶に弁解するような口ぶりである。


『冗談はさておき、私も今回のミスを反省したよ。前にこじ開けられた穴を塞いだけど、それを利用されたからまずはその穴を塞いだ。勿論、今のままだとまた同じことをやられるだろうから、私は分身の数を日本担当の1柱だけに減らして、9体分の分身の力を私に戻したよ。これでちょっとやそっとじゃナイアルラトホテップにしてやられないね』


「そうあってほしいものですね。晶さん、残党狩りをして戦闘を終わらせますよ」


『そうだね。ちゃっちゃと終わらせよう』


 ルーナの力が強まったかどうかなんて自分達にはわからないから、沙耶は会話を切り上げて晶と共に4期パイロットが戦っているナイトゴーントとティンダロスの猟犬の混成集団に攻撃し始めた。


 沙耶達が掃討戦に加われば、一気に状況が優位に運んでそれから5分程度で戦闘は終わった。

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