第289話 物事はそうそう頭の中で引いた図面通りにはいかないものだね

 茜がオルタナティブβと一緒に転送された先は、黒いゴーレム軍団に襲われているR国の首都そっくりな場所だった。


『崩壊の祖国、開始!』


 フォルフォルから開始の合図が出されたことにより、茜はオルタナティブβを自由に操作できるようになった。


 現在のオルタナティブβはパワーによく似ており、そのおかげで茜は重力のある空間でも空を飛んで移動できる。


 黒いゴーレム軍団はいずれも敵専用のゴーレムばかりであり、茜に近い位置ではエイブラムスとシューゾフィドラーが地上を攻撃していた。


「早速暴れてるわね」


 崩壊の祖国は終わった後に現実にその被害がフィードバックされるから、黒いゴーレム軍団に好き勝手させていると崩壊の祖国終了後にR国がとんでもないことになる。


 茜はR国に好意的な感情を持っていた訳でもないが、今は新人戦参加中だからルールに則って見敵必殺サーチ&デストロイの方針で敵を狙撃していく。


 エイブラムスは空からの砲撃、シューゾフィドラーは陸上で踏み潰しによる攻撃をしているが、茜は冷静に対処して敵の数を減らした。


『日本はスコアのために頑張ってるね。R国は自国の首都を守るために必死だ。それ以外の国は足を引っ張ったと思われない程度に敵を倒してるね。あっ、でも、デスゲーム前はR国が仲良くしてたC国がぼちぼちなのはどうなのかな? 緊急事態の時は見捨てるのがセオリーかい?』


 国同士の確執を浮き彫りにするべく、わざと全体に実況するようにフォルフォルが喋る。


『もう良い! 俺だけでも祖国を守る! だが忘れるな! 俺は、R国はこのイベントで起きた良いことも悪いことも全部覚えてるからな!』


 ライドンカイザーの怒りが全ゴーレムのコックピットに響いた。


 これもフォルフォルの仕業である。


 (仮に日本が襲撃された時、自分がどう立ち回るべきか学ぶ絶好の機会ね。R国には悪いけど、色々と試させてもらうわ)


 茜は見つけた敵を見逃すつもりなんてないが、緊急事態においてどのように動けばどんな事態になるか学ぶ貴重な機会だと判断し、崩壊の祖国でできることをあれこれ試すつもりだ。


 前方でフィドラークラブが建物を壊そうとしていたため、茜はビームライフルでそのフィドラークラブのコックピットを撃ち抜いた。


 これでフィドラークラブを撃破したものの、爆発の衝撃で近くの建物が壊れてしまった。


 (火気厳禁の施設が近い時は近接武器で倒す。それとそこから遠ざけなければならないわね)


 今の攻撃は100点満点ではないと判断し、茜は腰に備えてある剣とビームライフルを交換した。


 その時、オルタナティブβのモニターに背後から急接近する反応があった。


「後ろ!?」


 振り返ると同時に茜が剣を横に薙ぎ払うと、アサルトノワールの剣とぶつかって大きな音を立てた。


 R国の首都を襲っていた黒いゴーレム軍団にはアサルトノワールの姿がなかったが、茜を襲ったということは姿を隠しながら同行していたようだ。


 隠密性の高いアサルトノワールもいるということは、こっそり誰かを殺すとか何かを壊すという任務を受けていたのだろう。


 それでも先に茜を倒しに来たということは、アサルトノワールにとって茜の存在が邪魔だということに他ならない。


「明日葉さんのレポートを読んどいて良かった。あれにアサルトノワールについて書かれてたもの」


 恭介はルーナにレポートを書いてくれと頼まれた時、敵専用のゴーレムについてもしっかりと情報を記載していた。


 そのおかげでアサルトノワールの攻撃手段を予想できたから、突如背後から奇襲されても茜は迎撃できた。 


 一撃でオルタナティブβを倒せなかったため、すぐにアサルトノワールはその場から離脱する。


「逃がさないわ!」


 剣を腰のビームライフルと交換し、茜はアサルトノワールを狙撃する。


 回避パターンも恭介は把握していたから、そのパターンを利用して狙撃したところ、アサルトノワールの背中にビームが命中して爆散した。


『お見事! 日本のコンビニマンが敵ゴーレム軍団のレアエネミー、アサルトノワールを撃墜したよ! これで助かった命もあるんだから、R国民は感謝してよね!』


「レアエネミーだったのね。ということは、エイブラムスとシューゾフィドラーみたいな雑魚モブじゃないから、複数はいないと見て良いのかしら」


『その認識で合ってるよ。でも、他にもレアエネミーはいるからそこだけ気を付けてね』


 フォルフォルが茜の質問に答えたが、それは勿論参加しているパイロット全員に聞こえるようになっている。


 ためになる質疑応答は公平性を保つべく、全員に公開されるようにしておけば後で不平不満を言われることが減る。


 フォルフォルが負け犬への対応を減らし、自身が感じるストレスを減らすための対応である。


 アサルトノワール以外にもレアエネミーがいるとフォルフォルが伝えた直後、状況に変化があった。


『大変だ! ロストガーディアンがIN国のアルアルアルを倒しちゃった! おまけにそれを見てたD国のシュタイナーもやられちゃったよ! 2人の物的財産は全部没収! 残念!』


 (レアエネミーにはロストガーディアンもいる訳ね。それ以外にもまだいるかな)


 まさか残るレアエネミーがロストガーディアンだけではないだろうと思いつつ、茜はモニター上に見つけた敵に接近する。


 見つけた敵は運が悪いことにロストガーディアンだった。


「思ったよりずっと近くにいたのね」


 茜はロストガーディアンが振り下ろした剣を躱し、反撃の機会を探る。


 ロストガーディアンについても、恭介のレポートに情報があったから茜はロストガーディアンにどう戦えば良いかわかっていた。


 重装備ゆえに小回りが利かないから、茜は大振りになった直後に反撃しようとそのチャンスを待つ。


 何度か振り下ろしと薙ぎ払いを躱していると、ロストガーディアンが大振りの攻撃をして隙を見せた。


「ここ!」


 茜はロストガーディアンの背後に回り込み、素早くビームライフルを連射してロストガーディアンを撃墜した。


『お見事! 日本のコンビニマンが敵ゴーレム軍団のレアエネミー、ロストガーディアンを撃墜したよ! R国民と同胞をやられたIN国民とD国民はコンビニマンに感謝しようね!』


 2機目のレアエネミーを撃破し、茜の集中力は尽きかけていた。


 アサルトノワールとロストガーディアンの連戦だったならば、そうなるのも無理もない。


 (少し休もう。今のまま戦ったら危険だわ)


 茜がオルタナティブβを目立たない所まで動かし、休んでいるところで制限時間の1時間が過ぎた。


『しゅぅぅぅぅぅりょぉぉぉぉぉ! 首都の損壊率は50%! 半壊したけどミッションは成功だね! やればできるじゃん!』


 フォルフォルのアナウンスが聞こえてすぐに、オルタナティブβがイベント会場に転送される。


 それと同時にモニターには個人用のバトルスコアが表示されたので、茜はそれに目を通す。



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バトルスコア(第3回新人戦・崩壊の祖国)

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出動時間:1時間

貢献率:65%

撃破数:エイブラムス4機

    シューゾフィドラー4機

    アサルトノワール1機

    ロストガーディアン1機

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総合評価:A

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

レアエネミー撃破ボーナス:資源カード(食料)100×5枚

             資源カード(素材)100×5枚

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:怒涛乱突ガトリングスラストLv5(stay)

コメント:物事はそうそう頭の中で引いた図面通りにはいかないものだね

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 (人が胸の内に秘めた思惑なんて簡単にはわからないもの。図面通りになる訳ないでしょ)


 イベント会場に戻って来た茜は日本の他の4期パイロットに出迎えられて安心し、フォルフォルのコメントについて考えるのを止めた。


 そして、第3回新人戦は終わりを迎える。

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