第189話 デーモンよりもよっぽどデーモンらしい

 1期パイロットが出撃し、2期パイロットがコロシアムに挑んでいる頃、3期パイロットの明日奈はコロシアムの新しいコンテンツに挑んでいた。


 そのコンテンツの名はバトルメモリーだ。


 これは今までの代理戦争と新人戦のバトル部門を体験できるコンテンツであり、当初は2期と3期パイロット向けだったところを担当国を失ったフォルフォル達の頑張りにより、1期パイロットも挑戦できるよう調整されている。


 明日奈はレースやタワー探索、コロシアム等でナグルファルに乗っており、ナグルファルでクリアできるコンテンツはクリアしてしまった。


 今残っているのは、ナグルファルだけでは対応が難しいものだけである。


 だからこそ、新しく増えたバトルメモリーで鍛えることにしたようだ。


『明日奈ちゃん、どのバトルを体験したいのかな?』


「ポイント争奪戦よ。トゥモロー様のファンとして、足跡を辿るのはファンの嗜みですもの」


『ガチ恋だったね。それなのに麗華ちゃんに彼女ポジション盗られてるのマジウケる』


「死ね」


 地雷を踏み抜かれ、明日奈の目からハイライトが消えていた。


 フォルフォルはまだ退かない。


『あれ~? 事実を言ったら逆ギレしちゃうの~? ガチ恋ざまぁ』


「死ね死ね死ね死ね死ね」


『あっ、これ駄目なスイッチは言ってるね。とりあえず、入場門だけ開いておくよ。バイバ~イ』


 死ねという言葉をお経のように延々と言い始めた明日奈を見て、これは手を付けられないと思ったフォルフォルは入場門だけ開いてモニターから姿を消した。


 明日奈は無意識で入場門の中にナグルファルを移動させており、気が付いた時には第1回代理戦争のバトル部門で行われたポイント争奪戦のフィールドにいた。


 (不愉快ね。トゥモロー様に会うためにさっさとクリアしないと)


 フォルフォルのせいで不愉快な気分は、恭介に会ってリセットするに限ると明日奈がやる気を出した。


 バトルメモリーで再現されるバトルメモリーは、そっくりそのままを体験できる訳ではない。


 敵がモンスターとNPC化した他国のパイロットになったのもそうだが、出現するモンスターが1階層~5階層という縛りは消えて挑戦者の遭遇したことのあるモンスターに範囲が広がったのだ。


 加えて言うならば、制限時間を短縮できるものもあり、ポイント争奪戦もそれに該当するから制限時間が30分に変わっている。


『ポイント争奪戦、始め!』


 フォルフォルの宣言と同時にモニターには残り時間と保有ポイント、マップ、複数のアイコンが表示されるようになった。


 (高得点を狙いましょう)


 ルールが変わっている以上、恭介の戦いを寸分違わず再現するのは厳しい。


 したがって、同じイベントを体験するという目的を果たせるなら、そのイベント内でどうするかは自由にやると明日奈は決めた。


 最初に明日奈が狙ったのはデーモンネクロマンサーだ。


 それと同じぐらいの距離で反対の方角にトリフィドが2体いたけれど、デーモンネクロマンサーならば配下を召喚するからポイントを多く稼げるだろうと判断した訳である。


 案の定、デーモンネクロマンサーはナグルファルを見つけた途端、魔法陣でスカルキューブとレイス、レギオン、キョンシーを召喚して守りを固めた。


「さっさとポイントになりなさい」


 明日奈は六腕衛剣ゲリュオンソードとナグルファルのソードウイングを使い、スカルキューブとレギオンから倒していく。


 サイズの大きなモンスターを8本の剣でバラバラにした後、レイスとキョンシーを倒してデーモンネクロマンサーに迫る。


「もっと召喚して私にポイントを寄越せ」


 デーモンネクロマンサーにとって、この時だけは明日奈の方が悪魔らしく感じたことだろう。


 召喚しなければサイコロカットされると思い、デーモンネクロマンサーは再びモンスターを召喚する。


 今回も同じラインナップだったが、召喚した数は2倍だった。


 それら全てがポイントにされ、デーモンネクロマンサーもすぐにその後を追うことになった。


「ふぅ。コスパはそこそこ良かったわね」


『デーモンよりもよっぽどデーモンらしい。これが恭介君ガチ勢の正体だったんだ』


「煽るしかできないカスは黙ってなさい」


『辛辣辛辣ゥ!』


 容赦のない発言に対し、フォルフォルは茶化しながらモニターから消えた。


 フォルフォルがいなくなったモニターには、北東から敵のゴーレムが接近している反応があった。


『ヒャッハー! 汚物は消毒だぁぁぁぁぁ!』


「あぁ、都合が良いわね。トゥモロー様と同じようにお前を倒してあげる」


 第1回代理戦争において、恭介はR国のマトリョーシカが乗るニトロキャリッジと遭遇してそれを撃破している。


 その追体験ができることに喜び、明日奈はソードウイングでニトロキャリッジのタイヤ全てを切断した。


 タイヤを破壊されて移動ができなくなったニトロキャリッジは、エンジンが空回りした結果爆散することになった。


「汚い花火ね。トゥモロー様もあの時そう思ったのかしら」


 そんな風に言う明日奈だが、あの時の恭介はマトリョーシカを殺してしまった時に正当防衛とはいえ気分が良くないと感じていた。


 恭介と明日奈の捉え方に差があるのは考えるまでもない。


 それはさておき、ニトロキャリッジが派手に爆発したせいでモンスターがナグルファルに接近して来た。


 やって来たモンスターとは、コロシアムのマルチプレイで出現するニンバスドレイクだった。


 20戦目の相手であるニンバスドレイクは、水属性ということで火属性のナグルファルしか操縦できない明日奈にとって相性が悪い。


「ギフト発動。トゥモロー様、お力を貸して下さい」


 偶像崇拝アイドルファンLv13を発動し、ナグルファルの正面にドラストムが現れた。


 ギフトである偶像崇拝アイドルファンでは、同じくギフトの黄竜人機ドラキオンで乗り換えられるドラキオンは呼び出せない。


 それがわかっているから、明日奈はドラストムに乗った恭介を召喚したのだ。


 ニンバスドレイクは降っていた雨を1ヶ所に集め、それをジェット噴射して攻撃に転用した。


 それがナグルファルを狙うのだが、ドラストムに乗った恭介がその前に立つことで嵐の鎧がジェット噴射を弾いてみせる。


 当然それだけで終わるはずなく、ドラストムの翼から爆発する粉が舞ってニンバスドレイクを包み込み、風属性の爆発が生じてニンバスドレイクは力尽きた。


『大したことないな』


「キャァァァァァ! トゥモロー様素敵ぃぃぃぃぃ! 抱いてぇぇぇぇぇ!」


 ニンバスドレイクを倒した恭介を見て、ナグルファルのコックピット内で明日奈は叫んだ。


 しかし、偶像崇拝アイドルファンで召喚した存在に受け答えする機能は含まれておらず、時間制限が来たことによってドラストムは消えた。


 それと同時にタイムアップのブザーが鳴る。


『しゅぅぅぅりょぉぉぉ! スコア発表をはぁじめるよぉぉぉぉぉ!』


 フォルフォルがポイント争奪戦終了を宣言すると、ナグルファルの足元に魔法陣が現れてコロシアム前に転送され、それと同時にバトルスコアがモニターに表示される。



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バトルスコア(バトルメモリー・ポイント争奪戦)

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保有ポイント:334

モンスター討伐数:14回

ゴーレム撃墜数:1機

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

ゴーレム撃墜ボーナス:武器合成キット

ギフト:偶像崇拝アイドルファンLv14(up)

コメント:ふと思ったんだけど、明日奈ちゃんは推しのためなら死ねる?

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「当たり前なことを言わないでくれる?」


『ガチ恋怖ぁ』


「黙れカスフォル」


『口が悪い女性は恭介君も好まないと思うよ』


 それはその通りなので、明日奈もうっと唸った。


 明日奈だって好きで汚い口調にしているのではなく、不快感を我慢できなくなって使っているからまだまだ自己管理が甘いと自覚できたのだろう。


 瑞穂に戻って来てから明日奈は恭介と麗華が一緒に私室に入るのを見かけてしまい、もやもやした気持ちをトレーニングルームのサンドバッグを殴って発散したのはまた別の話である。

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