第8章 デスゲーム再び

第71話 どうやら僕の性別が知りたいようだね。ならば答えよう! 僕は♂であると!

 ホームに来て16日目の朝、恭介は目を覚ました。


 今日も隣には麗華が寝ていた。


 麗華は第1回デスゲームが終わって以来、恭介の隣だと安心して眠れるからと言って恭介のベッドに潜り込むようになっていた。


 精神的に完全復活していない以上、麗華に折れられては困るから恭介は麗華の隙にさせている。


 麗華も恭介が目を覚ました振動で起きたらしく、目を開けて眠い目を擦った。


「おふぁよ~」


「おはよう」


 2人は顔を洗って着替えた後、食堂に移動した。


 第2回デスゲーム当日だというのに、昨日と特に変わらない朝を迎えたことが気になって恭介は食堂のモニターに向かって声をかける。


「フォルフォル、デスゲームは始まったんだよな?」


『始まったね。今はチュートリアルが終わって2期パイロット達は寝てるよ』


「チュートリアルだったから俺達はスキップしたってことか?」


『そゆこと。1期の君達はギフトレベルの上限が20になったよ。恭介君の場合、レベル10の状態でかなり経験値を溜め込んでたみたいだから、既にLv13になってるね』


 (ギフトレベルで1期のパイロットに優位性があるのか)


 それは恭介や麗華にとって嬉しいことであると同時に、E国のマーリンとF国のムッシュが強くなることでもあった。


 マーリンとムッシュは第3回代理戦争で警戒すべきと判断しつつ、恭介はドラキオンを操縦できる時間が78分になったことを喜んだ。


 Lv20になれば最長で2時間ドラキオンを動かせるのだから、恭介にとって1期のパイロットが受ける恩恵は大きな力であると言えよう。


 その隣では麗華が微妙な表情になっていた。


「どうした麗華? あんまり嬉しくなさそうだけど」


「私の場合、ギフトレベルが上がるってことはそれだけ払わなきゃいけないお金が増えたってことだもの。素直に喜べないわ」


『まあまあ。麗華ちゃんはロマン砲枠として他のパイロットに憧れてもらえば良いじゃないか』


「別に憧れてほしい訳じゃないわ。そりゃ切り札がないよりあった方が良いのは確かだけどね」


 ロマン砲は一部の者を興奮させる素敵なものだが、麗華にとってはそこまで魅力的ではないらしい。


 それでも、切り札があるのとないのでは全然違うから、麗華は金力変換マネーイズパワーを使えることを一応感謝している。


「フォルフォル、日本の2期パイロットの部屋は何処だ? 待機室パイロットルームには私室が追加されてなかったけど」


『あぁ、それね。君達がホームを購入した影響で、2期パイロットは入れないんだ。格納庫の奥に2期パイロット達の格納庫があって、そっちなら恭介君達も入れるよ』


「なんでそんな構造になったんだよ?」


『そのホームは君達の努力の結晶だろう? それを何もしてない2期パイロット達に使わせるのは私的にアウトだった。だから、新しい彼等専用のホームを用意した』


 フォルフォルの言い分はもっともだった。


 命を懸けて戦っていないにもかかわらず、充実した設備を最初から使えるのは増長を招きかねない。


 実力にマッチした設備を使わせるフォルフォルの方針に対し、恭介は反対しなかった。


 その一方、麗華は嬉しい気持ちを押し殺すのに必死だった。


 第2回デスゲームが始まれば、ホームに2期パイロット達がずけずけと入って来ると思っていたから、邪魔者が入って来ないなら恭介を奪われる心配もないとホッとしたのだ。


 麗華がニヤニヤしてしまうのを抑えていると気づき、フォルフォルは獲物を見つけた目で彼女を見る。


『恭介君と一緒に暮らせるのが自分だけで良かったね、麗華ちゃん!』


「煩い!」


「フォルフォル、麗華を揶揄うな」


『はーい』


 麗華に怒られるのは想定済みだったが、恭介にも注意されたのでフォルフォルはおとなしくなった。


 それから気持ちを切り替えて朝食を取り、対面する準備をしてから恭介と麗華は格納庫を経由して2期パイロット達の格納庫へと移動した。


 チュートリアルを終えたばかりということもあり、移動先の格納庫は増設した段階のver.1だった。


 そこには土属性のベースファイターと水属性のベーススナイパーがあり、恭介達は新人が2人であると判断した。


 格納庫には誰もいなかったから、奥の待合室パイロットルームに移動したところで恭介と麗華は2期パイロット達を見つけた。


 (ん? 今回は2人とも女性パイロットなのか?)


 片方は何処かで見たことのあるような三白眼で黒髪ショートの女性で、もう片方は中性的でツインテールの女性だった。


「君達が日本の2期パイロットか?」


「そうだよー。僕はねこまたびたびこと尾根晶。どうか僕のことはお姉さんって呼んでね☆」


 晶は明るく言ったが、三白眼の女性は名乗るのを躊躇っていた。


 それに助け舟を出すように晶が声をかける。


「サーヤ、挨拶挨拶ぅ~」


「はい。私は(゚д゚)こと沙耶です」


「筧?」


 恭介は筧という苗字と見覚えのある三白眼が紐づいて視線が鋭くなる。


 沙耶もそうなるだろうとわかっていたため、覚悟を決めて再び口を開く。


「想像してる通り、私の父親は筧正行ってろくでなしです。苗字で呼ばれるのは嫌いなので名前で呼んで下さい」


「「え?」」


 この沙耶の発言は麗華と晶の表情を硬くするのに十分だった。


 筧正行とは、前首相で恭介が下半身直結野郎と罵った人物だからである。


 麗華がとんでもない人選をしてくれたなとモニターの方を睨めば、案の定フォルフォルがとびっきりの笑顔でこちらの様子を見守っていた。


 恭介は母親経由で腹違いの妹がいることを聞かされていた。


 それゆえ、沙耶がその腹違いの妹だとわかって恭介は無表情になった。


「先に言っておきますが、悪いのは全部あの男です。私は中学卒業のタイミングで真実を知ってから、独り暮らしを始めて今まで一度もあの男と口を利いてません。信じて下さい」


 沙耶の言い分を鵜呑みにする訳にはいかないが、ここで仲違いすればフォルフォルの狙い通りだと思って恭介は葛藤した。


 そんな恭介の手を麗華が優しく握る。


「恭介さん、子供は親を選べないんだよ。最初から疑ってかかるのは良くない。それがフォルフォルの思うつぼだってわかってるんでしょ?」


「…そうだな。すまん。沙耶、さんで良いか?」


「沙耶で構いません。それに、GBOでは(゚д゚)としてそこそこ話はしてたと思いますから、変に気を使わないで下さい。私はあっちでキャラを作ってましたので、慣れた頃合いで適当に言葉を崩します」


「そうか。そう言えば(゚д゚)って名乗ってたな。とんでもない苗字が聞こえたせいでスルーしてた」


 恭介はGBO時代に(゚д゚)と付き合いがあった。


 彼が見つけた情報を検証班に伝える時、その窓口になるのが(゚д゚)だったのだ。


 沙耶が(゚д゚)ならば、信用できるとわかって恭介の態度は柔らかくなった。


「腹違いの兄妹って2人には悪いけどワクワクするね~」


「少し黙っててくれますか、性別を詐称してる晶さん」


「「んん?」」


 沙耶の口からとんでもない発言が飛び出し、恭介と麗華は晶の方を見た。


 見た目は男性のようにも女性のようにも見えるが、お姉さんと呼んでくれと言ったことから晶は女性なんだろうと恭介達は思っていた。


 ところが、沙耶の発言のせいで晶に女性じゃない疑惑が生じた。


「どうやら僕の性別が知りたいようだね。ならば答えよう! 僕は♂であると!」


 (2期パイロットなんなの? 癖が強過ぎるんだが)


 恭介はドヤ顔を決める晶の発言を聞き、2期パイロットには変人しかいないのかと心の中で溜息をついた。


 深呼吸して気持ちを切り替えてから、恭介は自分達がまだ自己紹介をしていないと気づいて名乗り始める。


「自己紹介がまだだったな。知ってるかもしれないが、俺は明日葉恭介。パイロットネームはトゥモローだ」


「私は更科麗華です。パイロットネームは福神漬けです」


「恭介さん、日本では2人の素性や第1回デスゲームでのレース、タワー探索、コロシアム、代理戦争は全部フォルフォルチャンネルで放映されてます。だから、後は私達のギフトと操縦するゴーレムを伝えれば最低限の自己紹介は済みます」


 その話を聞いて、恭介の表情が少し怖いものになった。


 フォルフォルが勝手に放映されていたことに対する怒りでもあるが、放映されてどんな戦いをしていたかわかっててなお自分達に配慮の欠ける池上に腹が立ったからだ。


 麗華もムッとしており、恭介の手を握る力が強くなっている。


 恭介は自分よりも麗華の方が不味い状況だと判断し、麗華に声をかける。


「麗華、深呼吸しろ。愚痴は後で言い合おう」


 麗華は恭介の言う通りに深呼吸し、気持ちを落ち着かせた。


 そこに晶が爆弾をぶち込む。


「ねえねえ、恭介さんと麗華さんって付き合ってるの?」


 その瞬間、麗華の顔が真っ赤になり、先程の深呼吸が無駄になったのは言うまでもない。

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