第4章 レース&タワー
第31話 人は1人では生きられない
デスゲーム6日目の代理戦争翌日の朝、恭介は朝食後の休憩を終えて立ち上がる。
「先にリッジハイウェイでレースして来るわ」
「本当に大丈夫? 今日ぐらいお休みしても良いんじゃない?」
リッジハイウェイとはGBOのレースにおける4番目のコースのことだ。
峠道の高速道路でガードレールが存在しないコースである。
カーブの数も多く、GBOでもコースアウトするパイロットが続出する難関コースと言われている。
「問題ない。政府に都合良く使われないようにするなら、資源カードを使う分と溜める分で別々に用意した方が良いからな」
「代理戦争のレース部門で手に入れたカードを使わなかったのはへそくりにするため?」
「まあな。権力者ってのは清濁併せ吞むものだ。今は国がピンチだから腹を割って話してくれるだろうけど、資源に余裕が出た時に欲をかいて多めに要求して来ないとも限らない。だから、余計なことを考えさせず、万が一の時のために備えておくためにレース部門で手に入れた資源カードはキープしてる」
「明日葉さん、怖い顔は駄目って言ったじゃん。落ち着いて」
麗華も立ち上がり、恭介に近づいて彼を抱き締める。
「あのさ、落ち着かせようとして抱き締めなくて良いんだぞ? というか、付き合ってもない男女でこういうのは良くないんじゃないか?」
「明日葉さんと私は運命共同体だもん。付き合い立ての彼氏彼女なんかよりもずっと濃い関係だと思わない?」
「そりゃそうだけど、だからと言ってそれが抱き締める理由にはならないだろうが」
「なんというか、昨日の明日葉さんを見て私は明日葉さんには愛情が足りてない気がしたから」
麗華が自分に向ける真剣な眼差しのせいで、恭介は何も言い返せなくなった。
実際のところ、恭介は母親に自分を育ててくれた感謝の念こそ抱いているけれど、愛情があったかと言えば微妙なところだった。
幼少期は人並みに母親を慕っていたが、自分の父親のことがわかってからは早く自立しようとして母親にも頼らなくなった。
母親の方も恭介が真実を知ってから、恭介とどう接して良いのかわからなくなってしまい、恭介が一人暮らしをしてからは関係が疎遠になっている。
家族関係は冷え切っている恭介だが、友人や学生時代の先輩後輩、会社での人付き合いは普通にしているので、人に対する情がない訳ではない。
だが、昨日の恭介を見たからこそ、麗華は恭介を放っておけない気持ちになったのだ。
その上、代理戦争でも自分のピンチを助けてくれたし、この拠点のアップデートでも色々と恭介にお世話になっているから、自分にできることをしてあげたいと思っている。
「人は1人では生きられない」
「え?」
「以前、本で読んだ時に見つけた言葉だ。漢字の人の成り立ちもそうだけど、人は支え合っていくのが前提の生物だから、欠点を補い合うんだろうな」
「そう思うならもっと私に甘えても良いんだよ、恭介さん」
「更科?」
いきなり名前呼びされたので、恭介は困惑した表情になった。
そんな恭介に対して麗華は優しく微笑む。
「死線を共に潜り抜けたのに、苗字で呼び合うなんて余所余所しいじゃん。私のことも麗華って呼び捨てにして良いからね」
「…わかったよ、麗華」
「よろしい」
「じゃあ、そろそろ離れてくれ。俺はレースで稼いで来るから」
恭介が優しく麗華の腕をどけ、その頭をわしゃわしゃと撫でる。
「恭介さん、私のことを子ども扱いしないで。私、大人の女性なんだけど」
「はいはい。じゃあ、行って来る」
「むぅ、行ってらっしゃい」
恭介に大人の女性扱いしてもらえたのか怪しかったが、恭介はダル絡みされるのを嫌がる。
それがわかっているから、麗華は頬を顔を膨らませつつも恭介を見送った。
恭介は格納庫からケット・シーに搭乗し、カタパルトに乗って
「明日葉恭介、ケット・シー、行きます!」
『憧れのセリフが言えてよかったね』
「…煩い」
コックピットのモニターに現れたフォルフォルにツッコんだ時には、恭介は既にレース会場に着いていた。
フォルフォルに頼んで入場門を開いてもらい、リッジハイウェイに移動したら既に7機のゴーレムが位置に着いて待っていた。
リッジハイウェイで競うゴーレムは、ワンランク上がって
リッジハイウェイのソロモードでは、対戦する相手がブラストキャリッジ4機とプリンシパリティ3機と決まっている。
ブラストキャリッジはニトロキャリッジの上位互換だ。
見た目が豪華になっており、側面だけではなく天井にもマシンガンが設置されている。
しかし、ハイリスクハイリターンなところは修正されておらず、スピード調整を失敗すると爆発する仕様はニトロキャリッジと変わらない。
プリンシパリティは翼の生えた自由の女神像がトランプのジャックの服装をしているデザインで、十字架を模った剣を武器とする。
翼があるということは空を飛べる訳で、ブラストキャリッジとは違ってリッジハイウェイでのコースアウトの可能性は低いだろう。
リッジハイウェイをどう走るかはシミュレーターで昨晩予習しているから、恭介はケット・シーをスタート位置まで移動させてレース開始のカウントダウンを待つ。
『3,2,1』
「ギフト発動」
恭介がギフトの発動を宣言し、彼はケット・シーのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移動した。
『GO!』
今回はスタートダッシュに失敗して自爆するブラストキャリッジはいなかった。
それでも、恭介のドラキオンが翼を広げスタートダッシュを決め、その風圧に逆らおうとスピード調整をせずアクセルを踏み抜いた結果、1機のブラストキャリッジが爆発した。
後方で起きた爆風を利用し、恭介は1位のまま一気に最初のカーブを突っ切ってコースの外に出た。
爆風を利用すればカーブをショートカットすることも可能だから、クネクネと曲がらずに大幅にショートカットしたのである。
3機のプリンシパリティも魔石の消耗を考えなければ同じことができたけれど、恭介のように爆風をコントロールすることは容易でなく、コースアウトしない範囲で上り坂を進むのがやっとだった。
(狙い通りに上手くいった)
スタートダッシュに失敗するブラストキャリッジがいなくとも、自分がスタートダッシュを邪魔することで爆発するブラストキャリッジはいるだろうと予想していたから、今のペースは恭介にとって狙い通りだった。
スピードを維持し続け、ショートカットできるカーブはコースを無視して飛ぶことでタイムをどんどん短縮していく。
下り坂は上り坂よりもショートカットしやすくなるから、半周から先は更に恭介のタイムが縮む。
ルート通りに走れば1周10分はかかるはずなのだが、恭介はショートカットを重ねることで1周目を5分で走ってみせた。
流石に4番目のコースともなると、競うゴーレムも早く動くから2周目に入ったタイミングで周回遅れにすることは難しい。
そうだとしても、ショートカットを重ねていくことで2周目も4分の3終わったところで6位のブラストキャリッジがと7位のプリンシパリティが戦っているのを見つけた。
風圧で牽制しつつ突っ込むと、ブラストキャリッジが恭介を撃墜しようとこれでもかとマシンガンで乱射する。
それが風圧によって弾かれ、7位のプリンシパリティに被弾して爆発する。
恭介はその爆風を利用してブラストキャリッジの前に出る。
ブラストキャリッジは恭介を撃ち落とそうとムキになるが、恭介はコースをショートカットして一気に距離を離す。
ショートカットした恭介は4位のプリンシパリティと5位のブラストキャリッジの間に入った。
ところが、6位のブラストキャリッジが未だに恭介を狙ってマシンガンを連射しており、その弾丸が5位のブラストキャリッジに当たって爆発する。
そのおかげで恭介はスピードアップに成功し、多少難易度の上がるショートカットを実行できた。
結果として、3周目に入るタイミングで2位のプリンシパリティの後ろに追いつくことができた。
ラスト1周になると、GBOではプリンシパリティもショートカットを仕掛けて来るようになる。
ここから先はショートカット勝負だ。
そうなった場合に勝敗を分けるのはゴーレムのスペックである。
プリンシパリティよりもドラキオンの方がハイスペックなので、ショートカットできる数もそれに比例してドラキオンの方が多い。
恭介は2位のプリンシパリティを周回遅れにしただけでなく、ショートカットする度にその差を広げてこのレースでもそのまま1位でゴールした。
『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』
恭介はコースを離れてから
-----------------------------------------
レーススコア(ソロプレイ・リッジハイウェイ)
-----------------------------------------
走行タイム:19分4秒
障害物接触数:0回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:0回
他パイロット周回遅れ人数:7人
-----------------------------------------
総合評価:S
-----------------------------------------
報酬:資源カード(食料)100×2枚
資源カード(素材)100×2枚
20万ゴールド
非殺生ボーナス:魔石4種セット×20
ぶっちぎりボーナス:アップデート無料チケット(食堂)
ギフト:
コメント:君は本当に私の予想の上を行くね
-----------------------------------------
(設計図も
もしかしたらと思って期待した恭介だったが、なんでもかんでも自分に都合良く事が進むとは思っていない。
それゆえ、恭介は気持ちを切り替えて麗華の待つ格納庫に帰還した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます