第29話 チェンジで

 待機室パイロットルームに戻って来た恭介と麗華は、増設装置アップデーターで自分達の私室をアップデートした。


 これにより、恭介は私室ver.4で麗華は私室ver.3になった。


 ついでに格納庫も折半でアップデートしてver.3に更新した。


 格納庫はアップデートにより、ゴーレムの作成と修理にかかる鉱物マテリアルが10%カットされるようになった。


 設備をある程度充実させても、恭介は170万ゴールド残しており、麗華も30万ゴールドぐらい残っている。


 この軍資金を持ったまま、2人はショップチャンネルを覗いてみた。


 恭介は自分の予想通りに品揃えが良くなっていたのを見てニヤリと笑った。



 ○設計図

 ・ピクシーの設計図 5万ゴールド

 ・ジャックフロストの設計図 5万ゴールド

 ・アークエンジェルの設計図 10万ゴールド

 ・タム・リンの設計図 10万ゴールド

 ・ユニコーンの設計図 50万ゴールド


 ○鉱物マテリアル

 ・カッパー×50 5千ゴールド

 ・青銅ブロンズ×50 1万ゴールド

 ・アイアン×50 5万ゴールド

 ・木目鋼ダマスカス×50 50万ゴールド

 ・聖銀ミスリル×50 100万ゴールド


 ○武器

 ・グレネードホルダー(アイアン) 1万ゴールド

 ・ショットガン(アイアン) 1万ゴールド

 ・蛇腹剣(木目鋼ダマスカス) 10万ゴールド


 ○魔石

 ・4種セット×10 1万ゴールド

 ・4種セット×50 5万ゴールド



「更科、俺は予備の木目鋼ダマスカスと蛇腹剣を買うけどどうする?」


「私はアークエンジェルの設計図だけにする。ショットガンは気になるけど、1つしかないんじゃバランスが悪いもの」


「わかった」


 お互いに決済を済ませたところで、恭介達は格納庫に移動した。


 格納庫は完全に戦艦の逸れになっており、転移門ゲートへの移動はカタパルトを使っての移動に変わっていた。


「おぉ、これで俺達もガ○ダムのパイロットの気持ちを味わえるのか」


「明日葉さん、私達が乗ってるのはゴーレムだよ。ガ○ダムじゃないってば」


「細かいことは言いっこなしだ。そんなことより、今から各々のゴーレムの調整時間で良いな?」


「うん。また後でね」


 恭介と麗華はそれぞれのゴーレムに乗り込み、てきぱきと調整を始める。


 恭介はザントマンとケット・シーの設計図を交換し、装備をボムスター零式を蛇腹剣に取り換える。


 ボムスター零式は優秀な武器だったけれど、恭介的には剣の方が使い慣れているのだ。


 蛇腹剣は一時期使い込んでいたこともあったので、GBOがリアルになった世界でも手足のように使いこなせる自信がある。


 ちなみに、ケット・シーの元々の装備はレイピアなのだが、レイピアでは刺突以外でまともなダメージを与えるのが難しい。


 その点、蛇腹剣は斬ったり鞭のように扱ったりできるから応用しやすいので、使いこなせれば便利なのだ。


 恭介がゴーレムの調整を終えた頃、麗華もゴーレムをエンジェルをアークエンジェルに変更し終えていた。


 麗華は武器の交換をしなかったから、エンジェルのものよりも威力の上がったデフォルトの2丁の銃をそのまま使う。


 満足のいく調整ができたところで2人はコックピットから出て来た。


「アークエンジェルはレースで見た通りだな。エンジェルより強そうだ」


「だよね。ケット・シーは長靴をはいた猫みたいだね。四足歩行はできないんでしょ?」


「できない。でも、その代わりにザントマンよりも素早く動けるし、空中でも姿勢を制御できるってのはポイント高い」


「空中で姿勢を制御? それって何に活かせるの?」


「多段ジャンプができる」


「何それすごい」


 ケット・シーを使って空中で姿勢を制御できれば、ジャンプして上向きの力が0になった時にもう一度ジャンプすることもできるのだ。


 恭介は一時期、GBOでケット・シーの多段ジャンプの限界を調べるなんてこともやったりしていたので、それを思い出して懐かしんだ。


「更科はアークエンジェルを使って特殊なチャレンジをしたことってない?」


「特殊なのか基準がわからないけど、アークエンジェルの翼で接近戦をしたことがあるわ」


「どゆこと?」


 麗華の言っていることがわからず、恭介は首を傾げた。


「明日葉さんが知らないってことは結構マイナーかも。実はね、アークエンジェルの翼って端が薄く鋭くなってるから、剣みたいに使うこともできるの。だから、接近戦は翼で中~遠距離は銃で敵を倒してた」


「そんな戦い方ができるとはなぁ。明日見せてくれ」


「任せて。ねえ、明日葉さん、そろそろ連絡を取らない?」


「…そうだな」


 麗華に言われて恭介はこれ以上先延ばしはできないと判断し、諦めて頷いた。


 恭介が避けていたこととは、待合室パイロットルームのモニターに増えた新機能にふれることだ。


 先程のアップデートにより、実はショップチャンネルとは別のチャンネルが増えていた。


 そのチャンネルの名前はナショナルチャンネルと言い、自分が所属する国の政府とテレビ電話できる機能だ。


 勿論、自由に使える訳ではなく、1週間に1回10分しか使えない。


 たとえ10分だけだったとしても、各国の政府はデスゲームに参加しているパイロットと連絡を取りたいだろう。


 何故なら、生命線である資源をまとまった量手に入れられるのはパイロットだけなのだから。


 恭介の場合、血縁上の父親が今の首相だから、ナショナルチャンネルで真っ先に出て来るだろうと思っている。


 それゆえ、ナショナルチャンネルの存在に気づいてもそれに触れようとはしなかったのだ。


 しかし、このままいつまでも放置しておける訳でもないから、深呼吸して恭介はモニターをナショナルチャンネルに変えた。


 それと同時に首相官邸の大会議室が映し出され、閣僚全員が揃っていた。


 一番近い所には見たくない三白眼の男性が大きく映っており、恭介は眉間に皺を寄せて口を開く。


「チェンジで」


「明日葉さん、もうちょっと頑張ろう? ここはそういうお店じゃないんだよ?」


『…恭介か』


「気安く俺の名前を呼ぶんじゃねえよ、下半身直結野郎」


 恭介から今までに聞いたことのない冷たい声がしたため、麗華は隣にいるのが本当に恭介なのかと疑いたくなった。


『首相、こちらの青年は?』


 閣僚の中でも筧首相に一番近い席に座っていた老人が訊ねる。


『血縁的には私の子供ということになる』


「俺はあんたみたいな屑の息子なんてお断りだ。失せろ。浮気した屑は首相に相応しくねえよ。この通信は1週間に10分しか取れない。あんたと喋るぐらいなら俺はこの通信を切って勝手に動く」


『…退席しよう。すまない、持木もてぎさん。後のことは頼みます』


 大会議室から筧首相が退室した。


 閣僚の中心である首相が退室させられる会議なんて前代未聞である。


 持木と呼ばれた老人は咳払いし、改めてカメラ越しに恭介と麗華の方を向く。


『明日葉恭介君と言ったね? 私は持木泰輔。自由党の副総裁だ。筧首相を支えてる者だ』


 持木は筧首相のことを君の御父上と呼ばずに苗字で呼んだが、そのおかげで恭介はナショナルチャンネルを閉じないでいた。


「そうです。GBOではトゥモローという名前でした。更科も自己紹介して」


「更科麗華です。GBOでは福神漬けという名前でプレーしてました。初めまして」


『更科…。あぁ、長野一の銀行の頭取が確か更科という苗字だったね』


「父です。ご存じだったんですか?」


『以前、長野県に行った時に話をすることがあってね。それはさておき、本題に入らせてもらおう。まずは明日葉君、更科さん、日本のために戦ってくれてありがとう』


 持木と他の閣僚が深く頭を下げた。


 閣僚達は割と本気で感謝している。


 恭介がレースで資源を獲得してカードリーダーで送ったおかげで、日本の資源事情は危機的状況にまで追い詰められずに済んだからだ。


「持木さん、腹を割って話しましょう。資源は後どれぐらい余裕がありますか?」


 恭介は持木を相手取っても微塵も緊張したりしていなかった。


 今までの社会人経験だけなら緊張していたかもしれないが、代理戦争に参加したことで自らの価値を正確に理解したからだろう。


 持木は画面越しだったけれど、まるで筧首相と話をしているようなプレッシャーを感じた。


 恭介は全力で否定するだろうが、血は争えないと思ってしまったのだ。


『現状だと貰った資源ではあと10日で満足に食事ができなくなる。素材の方は1週間で工業系の会社が稼働できなくなるだろう』


「そうですか。では、ひとまずバトル部門で手に入れた資源を送りましょう」


 恭介と麗華は代理戦争バトル部門で手に入れた資源カードを取り出し、カードリーダーに通した。


 それにより、いまだかつてない量の資源が国会議事堂に送り込まれた。


『ありがとう。資源到着の知らせが入って来た。これで1ヶ月は余裕で越せそうだ』


「そうですか。次に会う時もあの屑野郎は出席させないで下さいね。顔も見たくないので。それでは」


 ナショナルチャンネルが時間切れになり、首相官邸との通信が切れた。


 最初から最後まで冷たい声だった恭介に元に戻ってほしくて、麗華は恭介を抱き締めた。


「明日葉さん、お願い。元の明日葉さんに戻って。今のままは怖いよ」


 麗華の心臓の鼓動が聞こえ、恭介の冷え切った表情と心が温まって来たようだ。


「…すまんな更科。心配かけた」


「明日葉さん、疲れてるんだよ」


「そうかもしれない」


「大丈夫。私はずっと明日葉さんの味方だから。何があっても」


「ありがとう。あと10秒待ってくれ。それで元に戻るから」


 そう言って恭介は本当に10秒で気持ちを切り替えた。


 麗華はこのデスゲームにおいて、重要な役割を担っているのかもしれない。


 こっそりとモニターで麗華が恭介を抱き締めるのを見て、フォルフォルはそのように思った。

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