第3章 第1回代理戦争

第21話 待ってたぜェ!! この瞬間をよォ!!

 デスゲーム4日目にして代理戦争前日の朝、恭介は朝食後の休憩を終えて立ち上がる。


「よし、トゥームレイクでレースして来るわ」


「本当にやるの? 前日だよ?」


 トゥームレイクとはGBOのレースにおける3番目のコースのことだ。


 麗華が本気で言っているのかと訊き返したのは、恭介が昨日走った廃工場で調整せずトゥームレイクにチャレンジするつもりだからである。


 要は代理戦争前日に無茶する必要ないだろうと言いたいのだ。


 それに対して恭介は自信のある笑みを浮かべて応じる。


「前日だからこそだ。レースのコースが難しくなればなるほど、報酬にも期待できるじゃないか。安心してくれ。シミュレーターで予習は済んでるから」


「まあ、明日葉さんが勝ち目のないレースはしないと思ってるから良いけどね。じゃあ、私は明日葉さんが戻って来たら交代で8サーキットに挑むわ」


 麗華の場合はレースに慣れておくため、難易度の低い8サーキットに参加する。


 代理戦争はバトル部門だけでなくレース部門もあるから、麗華もレースにノータッチで本番を迎えたくないのである。


 恭介のザントマンが転移門ゲートを通ってレース会場に到着したら、フォルフォルがコックピットのモニターに現れる。


『やあ、恭介君。今日も今日とてレースなんだね。トゥームレイクに入れるようにしたよ』


 (俺と更科の会話はやっぱり筒抜けか。盗聴対策ってできるんだろうか)


「ありがとう」


 心の中ではフォルフォルを警戒していても、恭介は礼を述べてレース会場の入場門に向かってザントマンで進む。


 入場門を通過したら、いつも通りで既に7機のゴーレムが位置に着いて待機していた。


 トゥームレイクで競うゴーレムは、廃工場の時と同じくアイアン製のゴーレムだけだ。


 ただし、設計図の強さが異なっており、同じアイアン製のゴーレムでもトゥームレイクで競う敵の方がGBOのパイロットが揃って確実に強いと言うだろうラインナップである。


 アークエンジェルとケンタウロス、ジャックフロスト、スロットマン、ニトロキャリッジ、バトルタンク、マッドクラウンの順番で恭介の操縦するザントマンの前でレース開始の合図を待っている。


 アークエンジェルはエンジェルの上位互換と呼ぶべきゴーレムで、エンジェルよりも装備が立派だ。


 ケンタウロスは人馬型ゴーレムであり、腕には槍と盾を装備している。


 ジャックフロストは雪だるまをモチーフにしたゴーレムで、手に持つ箒によく似たメイスが特徴的だ。


 スロットマンはスロットマシンを擬人化した見た目のゴーレムであり、そのスロットの絵柄毎に揃った時の効果が異なる。


 ニトロキャリッジは危険なゴーレムで、ピーキーな出力ゆえに下手をすると自爆するハイリスクハイリターンがコンセプトの馬車型ゴーレムである。


 バトルタンクは脚がキャタピラで両腕が大砲のゴーレムであり、頑丈で火力はあるが遅い。


 マッドクラウンはピエロを模したゴーレムで、4本のナイフを状況に応じて使い分ける。


 レースに参加するゴーレムについては予習済みだから、恭介はザントマンをスタート位置まで移動させてレース開始のカウントダウンを待つ。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はザントマンのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移動した。


『GO!』


 スタートの合図と同時に事故が起きた。


 ニトロキャリッジがスタートダッシュに失敗して爆発したのである。


 ニトロキャリッジは爆散し、前後にいたスロットマンとバトルタンクは大破した。


「トラブル上等!」


 そんな中、ドラキオンは翼を広げスタートダッシュを決めており、後方で起きた爆風を利用して一気に1位になった。


 無事なゴーレム達はドラキオンの風圧で吹き飛ばされて上手くスタートダッシュを決められず、団子スタートとなってしまった。


 トゥームレイクは池が中心にある墓場のコースであり、池の周りを走る仕様である。


 罠こそないがラップ音や不気味な声がBGMと化してパイロットの集中を削ぎ、アンデッド型モンスターがゴーレムのレースを邪魔する。


 しかし、恭介の場合はドラキオンの風圧でBGMは全く聞こえないから集中力はそがれず、アンデッド型モンスターは動きが大して速くないからドラキオンを捉えられない。


 正直なところ、ドラキオンとトゥームレイクは相性が良い。


 その上、都合の良いことにニトロキャリッジがスタートと同時に爆発してくれたので、今回も全員周回遅れにできる可能性は十分にある。


 (アンデッドがわらわら集まってる。スロットマンとバトルタンクは終わったらしい)


 2週目に入る時にスタート地点から少し離れた所でアンデッド型モンスターが集まり、山が2つできていた。


 スロットマンとバトルタンクは大破しており、更には数の暴力で弱っている所を狙い撃ちされたようだ。


 恭介は心の中でドンマイと同情しつつ、風圧でアンデッド型モンスターの集団を吹き飛ばしながら先へ進んだ。


 5位のジャックフロストはアンデッド型モンスターに進路妨害されており、恭介はそれを華麗にスルーして抜かした。


 4位のマッドクラウンは恭介が近づいて来るのを察し、抜かれてなるものかとナイフで攻撃して来たが、ドラキオンの風圧に阻まれてナイフが飛んで行ってしまった。


 結果として、大した妨害もできずにそのまま恭介に抜かされ、その後も追いつくことはできなかった。


 3位のケンタウロスについては、恭介がそろそろ3周目というタイミングで補足できた。


 ドラキオンが隣に並ぶと、ケンタウロスは盾を構えて思いっきりドラキオンにぶつかろうとする。


 (待ってたぜェ!! この瞬間ときをよォ!!)


 恭介は心の中でガッツポーズし、一瞬だけドラキオンを減速した。


 それにより、ケンタウロスは突進を空振りして池に落ちた。


 池に落ちるとコースアウト扱いで失格になるので、ケンタウロスはこのレースから脱落した。


 残るは2位のアークエンジェルだが、3周目の半分を過ぎたところでドラキオンの射程圏に入った。


 アークエンジェルのパイロットはきっとびっくりしたに違いない。


 何故なら、ドラキオンの背後には空を飛べる幽体のアンデッドがぞろぞろと押し寄せており、ドラキオンによる風圧と共に不気味な音のオーケストラを開催していたのだから。


 ドラキオンとアークエンジェルのスペックを比較すれば、アークエンジェルが逃げ切ることなんて不可能だ。


 ドラキオンがアークエンジェルを抜く際に、アンデッド型モンスターの半分ぐらいがアークエンジェルにターゲットを変えた。


 最後のカーブを曲がる頃には、ドラキオンの後ろにアークエンジェルの姿は見えなくなっており、恭介はぶっちぎりの1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 二つ名を呼ばれることにも慣れて来て、恭介はさっさとコースを離れてから黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 恭介の視界に日付が変わるまでのカウントダウンが表示され、乗り換えたザントマンのコックピットのモニターにはレース終了後に出る毎度お馴染みのスコアが表示された。



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レーススコア(ソロプレイ・トゥームレイク)

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走行タイム:18分57秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×1枚

   資源カード(食料)50×1枚

   資源カード(素材)100×1枚

   資源カード(素材)50×1枚

   15万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×15

ぶっちぎりボーナス:木目鋼ダマスカス×60

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv5(up)

コメント:事故る奴は不運ハードラックダンスっちまったんだよ…

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 (フォルフォル、俺の心を読んでないよな?)


 ケンタウロスをコースアウトさせた時、恭介が心の中で思ったことに呼応するようなコメントをフォルフォルがするものだから、彼はフォルフォルが読心術の使い手なのかと疑問を抱いた。


 ザントマンの全身とボムスター零式をアイアンから木目鋼ダマスカス製に変えられるのは嬉しいけれど、フォルフォルに対する警戒から素直に喜べないのは仕方あるまい。


 とりあえず、恭介はレーススコアの確認を終えて転移門ゲートをくぐり、麗華の待つ格納庫に帰還した。

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