第2章 ビルドアップ

第11話 圧倒的じゃないか、ドラキオンは

 デスゲーム2日目の朝、目覚ましによって起きた恭介と麗華は食堂で今日の予定について朝食を取りながら話をしていた。


「今日だけど、探索の前に俺だけレースに出て来るわ」


「え? もうレースに出るの? 早くない?」


「大丈夫。ちゃんと準備してるんだ。実は…」


 恭介は麗華を納得させるべく、アップデートした私室にあるシミュレーターの話をした。


 それによってレース対策がばっちりだと聞き、麗華はムスッとした表情になる。


「明日葉さんだけ狡い。自分だけシミュレーターを使うなんて」


「いや、更科も1万ゴールド払えば私室のアップデートできるじゃん」


「むぅ…」


 恭介の言う通りだったから、麗華は何も言い返せず唸るのみだった。


 朝食と食休みを取った後、恭介はライカンスロープに搭乗して転移門ゲートを経由してレース会場に向かう。


 麗華は待機室パイロットルームのモニターでレースを観戦できるので、ここから恭介のレースを見守るつもりだ。


 無人のレース会場前に移動した恭介がレースの受付方法で悩んでいると、フォルフォルがコックピットのモニターに現れた。


『やあ、恭介君。1人で来たってことはソロプレイだよね。どのコースに挑む?』


「8サーキットで頼む」


『OK。というか、まだ8サーキットしか走れないんだけどねー』


「まったく、わかってて言うなっての」


『そこはほら、様式美って奴だよ。はい、8サーキットに入れるようになったから進んで良いよ』


 フォルフォルがそう言った直後にレース会場の入場門が光を放ち、恭介はそこに向かってライカンスロープで入っていった。


 入場門を通過したら、既に7機のゴーレムが位置に着いて待機していた。


 最初のコースだからなのか、ゴーレムの種類はベースファイター3機とベーススナイパー4機で、いずれも青銅ブロンズ製らしいことがわかった。


 レースは8機のゴーレムでコースを3周するのが一般的で、今回のレースもそのパターンだった。


 ちなみに、障害物やモンスターがパイロットを邪魔するだけでなく、お互いにパイロットが邪魔し合うのが普通だから、その対策をせずに挑むと酷い目に遭う。


 なお、恭介が挑む8サーキットだが、コースの形が8の字を描いていることから8サーキットと言い、読み方はハチではなくエイトである。


 ライカンスロープが位置に着いたことにより、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言した瞬間、ライカンスロープのコックピットにいたはずの恭介が、ドラキオンのコックピットの中に移動した。


『GO!』


「参る!」


 ドラキオンが翼を広げ、いきなりフルスロットルでスタートダッシュを決めたことにより、前にいた7機はその風圧で吹き飛ばされて大幅に出遅れた。


 恭介は最初のカーブにあった障害物をするりと躱し、待機していたモンスターは風圧で吹き飛ばしてまともに相手をしない。


 1周にかかった時間は3分とかからず、あっさりと2週目に突入した。


 余談だが、ソロプレイのレースの場合、対戦相手はGBOと同じNPCである。


 8サーキットはレースで選べる最初のコースということで、このコースで戦うNPCにドラキオンを操縦する恭介の敵になれる者はいない。


 2週目もすいすいと障害物を躱し、待ち伏せしているモンスターは風圧で吹き飛ばす。


 もう少しで3周目に入るところで、恭介が8位のゴーレムを追い抜かした。


 (何機周回遅れにできるかな?)


 そんなことを考えている内に、恭介は7位と6位のゴーレムを3周目に入るのと同時に抜いた。


 3周目最初のカーブで5位、4位のゴーレムを立て続けに追い抜き、半周したところでモンスターに走行妨害されている3位を抜かしてみせる。


 最後のカーブを曲がり切ったところで2位を周回遅れにして、恭介は堂々の1位でゴールしてみせた。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 ここでもそう呼ばれるのかと思った恭介だが、コースを離れてから黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 それにより、先程までカウントダウンが表示されていた視界の端に日付が変わるまでのカウントダウンが表示された。


 乗り換えたライカンスロープのコックピットのモニターには、GBO時代と同様にソロプレイでレース終了後に出るスコアが表示された。



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レーススコア(ソロプレイ・8サーキット)

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走行タイム:8分9秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)50×1枚

   資源カード(素材)50×1枚

   5万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×5

ぶっちぎりボーナス:キュクロの設計図

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv3(up)

コメント:圧倒的じゃないか、ドラキオンは

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 (フォルフォル、俺の後ろに妹はいないぞ)


 コメントが相変わらずネタに走っていたため、恭介は心の中でフォルフォルにツッコんだ。


 それから、通常報酬と2つのボーナス、ギフトのレベルアップという結果を見て満足した。


 食料と素材の資源カードもまとまって手に入ったから、今日のタワー探索であんまり資源カードが手に入らなかったとしても、それを十分補えるだろう。


 所持金も6万ゴールドまで増えたので、私室や食堂のアップデートに回せる。


 もっとも、食堂は麗華との今後の関係を考えると折半にしておいた方が良いから、今日中にアップデートできるかわからないのだが。


 魔石4種セットは赤、青、黄、緑の全てが1つずつ揃っていることを指し、それが5セット手に入ればどの属性のゴーレムも操縦できよう。


 また、キュクロの設計図を手に入れたことで、モノアイの狙撃が得意なゴーレムを新たに操縦できるようになった。


 ただし、GBO時代に恭介はキュクロを好んで使わなかったので、どうせなら他のゴーレムの設計図が欲しかった。


 とはいえ、麗華ならキュクロを使いこなせるはずなので、タワーに挑む前にベーススナイパーをキュクロに乗り換えさせるのはありだ。


 それだけでも恭介の戦闘の負担は減るに違いない。


 ついでにギフトもLv3になって18分ドラキオンに乗れるようになったから、明日のレースでも完走するまでドラキオンには乗れるだろう。


 レーススコアも確認し終わったところで、恭介はライカンスロープを操縦して転移門ゲートをくぐって格納庫まで戻って来た。


 ライカンスロープから降りて来た恭介を麗華が出迎える。


「お帰りなさい。明日葉さんおめでとう。ぶっちぎりの1位だったね」


「まあな。シミュレーターで練習した甲斐があったよ」


「まったく無駄のない走りだったよね。というか、風圧でモンスターを吹き飛ばすとかできるんだ? あんな現象初めて見たんだけど」


「おう。ドラキオンの出力をもってすれば、大型モンスターでもない限り風圧で吹き飛ばせるぞ」


 レースに出て来たモンスターは、プラクティスタワーに現れた3種類のモンスターにスライムを加えて4種類だ。


 その程度ならハイスピードのドラキオンの風圧にあっけなく飛ばされてしまうだろう。


「ちょっとレースに興味湧いたかも」


「GBO時代はあんまりレースで遊んだことなかっただろ? だったらタワー探索に余裕ができてからにしとけ。それよりもほら、この設計図を使え。キュクロの設計図だ」


「…良いの?」


「今日の探索じゃ俺は黄竜人機ドラキオンを使えないからな。代わりに更科を強化してカバーしてもらおうって考えだ。それに、俺はキュクロを好んで使わないから、俺が持ってても宝の持ち腐れだろ?」


 与えてもらってばかりいる自覚があったため、麗華は本当にキュクロの設計図を貰って良いのかと恭介に訊ねた。


 恭介はこれが自分のための行動でもあると言ったので、麗華はキュクロの設計図をありがたく受け取ることにした。


「ありがとう。どんどん明日葉さんに対する借りが増えてくね。頑張って返すよ」


「おう。気長に待ってるわ。とりあえず、タワー探索に行く前にゴーレムをキュクロに交換して来いよ」


「うん。ちょっとだけ待ってて。すぐに調整するから」


 麗華は笑顔で頷いてからベーススナイパーに乗り込んだ。

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