陰陽師の隠し子の末裔、陰陽師花子と霊感少年西郷寺太郎のミステリー倶楽部
ayane
プロローグ (―赤い靴―)
1
―2012年―
北海道知床、原生林の生い茂る美しい湖の側には別荘があり、小さな双子の女の子が両親と共に宿泊していた。
「鬼さんこちら、手の鳴るほうに」
パチパチと小さな手を鳴らし、湖に架かる船着き場を歩く。湖は澄んだ碧い色をしていて、女の子の姿を映し出す。
船着き場には小さなボートが一艘ゆらゆらと浮かんでいた。
女の子の鳴らす手の音に反応するように、目隠しをした女の子が音の鳴る方に両手を伸ばした。
「待ってよう……」
船着き場の板の上を踏むと、ミシミシと不気味な音がした。目隠しをされた女の子は一瞬立ち止まる。
「こっちに……おいで」
ミシミシと踏み板を鳴らし、女の子は一歩、また一歩と小さな足を前に出すが、体の中心は不安定で足元はおぼつかず左右に揺れている。
湖の側にはヒオウギアヤメが咲き紫色の花をつけて、風に揺れていた。
――と、その時だった。目隠しをした女の子が板から足を踏み外し、湖の中へと沈んだ。
泳げない女の子は、湖の中でもがいている。
バシャバシャと水音がして、女の子は声を上げようとするが、目隠しをしているためパニックとなり、湖水をガブガブと飲み込み声が出せない。
もう一人の女の子は、船着き場の上でじっと女の子を見つめていた。
氷のように冷たい眼差し……。
その女の子の足には、色鮮やかな黄色い靴。
「た……す……けて……」
女の子は力尽きぶくぶくと沈む。女の子の小さな手が最後まで水面から出ていたが、その指先もゆっくりと湖の中へと沈んでいった。
――その時、偶然通りがかった1人の男性が異変に気付き湖に飛び込んだ。意識を失いかけた女の子が湖から一瞬顔を出したが、女の子にしがみつかれた男性は身動きができなくなり、共に湖底へと沈んだ。
――数分後……。
湖底から浮かび上がったのは……。
湖に沈んだ女の子が履いていた……。
――赤い靴。
ぶくぶくと湖底から水面に泡が浮き上り、暫くすると何事もなかったかのように湖はいつもの静けさを取り戻す。
ほんの数分の出来事だった。
美しい湖が、2人の人間を呑み込んだおぞましい瞬間だった。
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