第16話 最期

 一瞬にして、民衆が集められた。

魔女狩りは、僕をきっかけに始められた。

そして、筆頭となっていたのはエドアルドだ。

今こそ国王が勝手にやっているみたいだけど、国王に気に入られているエドアルドが国王を説得してくれれば、きっと哀しい魔女狩りは終焉を迎えることができるだろう。

 「なあ、エドアルド。」

「なんだ」

「もし僕を哀れだと思うなら、一つ、願いを聞いてくれないかな」

「……話だけは聞こう」

「僕を殺したら、もう魔女狩りは止めるよう、国王を説得してくれないかな」

「お前、最初からそれが狙いなんだろう」

「それもあるけど。アナスタシアには弟がいるらしくてね。もし彼の子孫が魔女として生まれたなら、可哀相じゃないか。アナスタシアの家族なら、守ってあげようかなって。……まぁ、もうアナスタシアはいないんだけどさ」

「ふむ……そうだな……。それくらいは叶えてやる。……だがな、薄暗い森の中で隠居してアナスタシアの真似事をしていたお前は知らないことを一つ教えてやろう」

「いちいち言い方が腹立つけど……何?」

「お前にとっては幸運なことに、我が主はもういない」

「え、そうなの?」

知らなかった。一応、うちの森にも多少は世間話が入ってくるんだけど……

「ああ。つい先日、突発的な病気でな」

「ふぅん。きっと散々罪の無い魔女達をいたぶってきたから、そのツケが回ってきたんだろうね。ご愁傷様」

「ふん、だからと言って今更、じゃあ殺すのを止めてくれなんて言わないだろう?民衆はもうお前の希望通り集められた」

「……うん、勿論。分かってるよ」

 魔女たちは皆優しかった。

アナスタシアはそんな優しい魔女達が死んで悲しんでいた。

アナスタシアが愛した魔女達は今、陽の光もロクに浴びれずに森の奥でひっそりと暮らしている。なんの罪もないのに。

僕は、彼女達を、今までのように太陽の下で暮らせる生活に戻してあげたい。

魔女の犠牲に涙したアナスタシアのために、後世に続く魔女達を守ってあげたい。

元々僕のせいで彼女らがこういう目に遭った訳だから、自己満足だと石を投げつけられてもぐうの音も出ないんだけどね。

 僕は民衆の前に顔を出した。

民衆は僕の存在に恐れをなしている。

僕は依然アナスタシアのフリを続けて話した。

「皆さんのことを、私達は忘れない。貴方達は、何人もの魔女を殺した。貴方達が直接手を下さなくても、私達を見殺しにし、魔女狩りを楽しんだ。それはもう、立派な人殺しですよ。それを、貴方達は忘れないでくださいね」

精一杯の笑顔でそう言った後、僕はエドアルドの方を振り返った。

「もういいのか?」

エドアルドは小声で話しかけてくる。僕はそれに同じく小声で応じた。

「うん。ありがとう。でも、最期に君に一言だけ言わせて。君のことは大嫌いだ。これまでも、これからもね。今度は民衆の信仰に酔いしれる神の成り代わりにでもなればいいよ、精々頑張って」

「お前のそのひん曲がった性格は、何をしても治らなかったな。きっと死んでも治らないのだろう。まぁ安心しろ。俺は馬鹿では無いから、神の名など騙らない。全知全能になったつもりになって、磔になるのも御免だからな」

「そうだと良いけどね。……民衆も待ちくたびれちゃうし、そろそろ、お別れとしようかな」

「そうだな。じゃあ、またな。……二度と、巡り逢わない事を願うが」

「ふふ、そうだね。じゃあ、また」

ジャキッッ!!!!!

 こうしてアナスタシアは、二度死んだ。

紛れもない、この僕自身のせいでね。

思えば、どの死に際も、僕らしい中途半端な終焉だったと思う。

アナスタシアに助けてもらったあの時も、アナスタシアを助けられなかったあの時も、そして、今も。

なんて、アナスタシアが聞いたらきっと怒ると思うけど。

あまりにも脳内で怒るアナスタシアがリアルだったから、僕は思わずふふっと笑ってしまった。

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