第12話 僕と新しい友達



「猫宮玲央(ねこみやれお)です。好きな女の子は小春ちゃんです。よろしくね。」


自分の正体をバラさずに、いかに好きになってもらうか。とても難しい事だった。


まずはこちらが好意を持っていると伝える事が大事だと思って言ってみたが、もしかしたら失敗だったかもしれない。

これが猫だったら相手にマーキングや毛繕いするだけなんだけど

どうやら人間はそんな事をするとタイホされるらしい。


だから言葉で好意を示してみたんだけど


「ねえ、小春ちゃんってうちのクラスの?!」

「付き合ってるの?」

「どういう関係!?」


その結果僕の周りには小春ちゃんじゃない女の子が集まってきてしまった。

僕の容姿はとても興味を惹くものらしくて、すぐ注目の的になるみたいだ。



「せっかくイケメンにしてあげたんだから感謝してよね。恋もうまく行きやすくなるよ。」



神様はそうは言ってたけど、これじゃあ余計な邪魔が増える気がする。

僕は笑いながら当たり障りのない返事をしていく。


「小春ちゃんとはまだ付き合ってないんだ。

向こうは覚えてないと思うけど、小春ちゃんには幼い頃助けてもらったんだ。その時にこの子が運命の子だって思った。同じ学校に通えて嬉しいな。」


僕は小春ちゃん以外の女の子に眼中がない。

こう言っておけば僕の事は放っておいてくれるだろう。


「えー!片思いってやつ?なんかときめくー!」

「一途な男ってすごいぐっとくるよね!」


思ってた反応とちょっと違った。

早くどっか行ってくれないかなぁ。


小春ちゃんの方を見ると、ちょうど向こうも僕の事を見ていてばっちり目が合った。

ゆっくり瞬きして好意を示してみたけどあまり伝わらなかったみたい。


そのうち1人の男子が前に立って、何か集まり?懇親会とかいうのをしようと言い出して

小春ちゃんも参加するみたいだったから僕も参加する事にした


何度か声をかけようとしたけど、周りには相変わらず女の子が集まってくるし

小春ちゃんは、たしか里奈ちゃんと颯太ってやつにとられてる。


小春ちゃんの隣は僕の場所なのに。


見ていると胸がもやもやと嫌な気持ちでいっぱいになる。せっかく人間になったのに。


小春ちゃんが結婚しようって言ったから

ずっと一緒にいようって約束したから

僕はいまここにいる。


猫はとても愛情深いんだ。


タイミングを見て小春ちゃんに話しかけよう。

そして好きになってもらって結婚する。幸せにする。




懇親会は学校の外で行われるみたいで、僕はただみんなについていく。

そしてついたのはカラオケっていうお店だった。


「こういう所にくるの初めてだ。」

「そうなの?やばいじゃん!初カラオケ!」

「何歌うの?猫宮の歌聴きたーい!」


この子達は僕に運命の相手がいても気にしないみたいだ。

僕の両隣に座った女の子はちょっと派手な、気の強そうな子達だった。


「ねえ、小春ちゃんって子、木村と結構良さそうな雰囲気だけど大丈夫なのー?」


僕の隣に座ってきた女の子に言われてそっちを見ると、確かに仲が良さそうだった。

またもやもやと心に黒い感情が生まれる。

余裕のない男に見られるのはカッコ悪いから、僕は深呼吸して答える。


「あれは、ちょっと嫉妬しちゃうかな。」

「木村って昔からいい感じにモテるんだよねー。」

「わかるー、早くしないと小春ちゃんも木村の事好きになっちゃうかもだねー。」


ニヤニヤと僕の反応を楽しんでる気がする。なんなんだこの2人は。


「そんな事いって君達は僕の事をどうしたいの?」

「いや?別に?恋する男とか可愛いだけ?」

「そー、しかもイケメンだし!」


ねー、と僕の事を挟んで2人は顔を見合わせて言う。

人間になって早々僕は女の子に遊ばれてしまっているらしい。


「てゆうかウチらの名前知らないでしょ!ウチ、中川杏里(なかがわあんり)!」

「ウチは野村柚(のむらゆず)、席近いんだから覚えてよねー!」

「君達2人はなんで僕にそんな構うの?」

「え、だってイケメンだから。」

「映えるじゃん!」


そう言って僕と一緒に写真を撮り始める2人。

正直小春ちゃん以外の女の子の名前を覚える気も、仲良くなる気もない。


それよりも問題はあいつだ。

木村とかいうやつ。

小春ちゃんの横で仲良くしてるやつ。

僕の方が顔がいい。神様の顔だけど。


そしてそのうち誰かが歌い始めて、

部屋に大音量で音楽が流れる。


「うわっ。」


あまりにも大きな音にびっくりして僕は耳を塞ぎたくなる。


「何本当にカラオケ初めてなの!?」

「そうだよ、こんな大きな音がするなんて思ってなかった。」


中川と名乗った方は、笑いながら手元にある機械をいじっている。


「音うるせーし、声聞こえねーから下げるわ!」

「…ありがとう。」


それでもまだうるさいけど、音が少しだけ小さくなった。


「てかほら、隣にいた女子どっか行ったけど今じゃね?」

「ほんとだ!いけ!猫宮!木村は任せろ!!」


そういって僕を無理やり立たせて、中川と野村の2人は


「ちょっと木村!きてー!」

「猫宮邪魔だからあっちいってて!木村ちょっとここ座って!」


木村を呼び出して、僕を追い出した。

なぜ2人が僕の協力をしてくれてるかも分からないけど、悪い子達じゃないかもって思った。


「ありがとう。」


僕は2人にそう言って、小春ちゃんの元へ向かった。

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