第10話 僕と新しい生活



僕は今神様と一緒に住んでいる。

早く小春ちゃんに会いに行きたいけど

今の僕じゃまだ会えないらしい。


「会うのはもっと人間の事を勉強してから。」


そう言って神様は僕に、箸を渡す。


「食事をする時はそれを使って食べるんだよ。」

「そのまま食べればいいのに。」


慣れない手を使って教えてもらった通りに箸を使う。


人間ってすごく大変だ。



僕はいま神様にヒトの姿にしてもらっている。

小春ちゃんに会いに行くなら猫の姿のままでよかったんだけど、猫のままじゃ結婚はできないらしい。


「水を飲む時は舌で飲まない。コップを傾けて口の中にいれるんだ。」


何から何まで猫の時と違うから、僕はとても大変な思いをしている。

特にこの服を着るのが一番窮屈で煩わしい。


「人間ってなんでこんな面倒なの…。」

「なんでだろうねえ。」


僕が困っているのをニヤニヤ見ている神様がむかつく。


「小春ちゃんと結婚したいんでしょ?頑張らなきゃ。」


そうだ、僕は小春ちゃんに相応しい人間になるために勉強しなきゃいけない。

再び箸をとってゆっくりご飯を食べる。


人間の食事は、猫の食事と違って種類が多くて楽しい。

食べるのは大変だけど。


「僕はいつ小春ちゃんに会えるの?」

「うーん、確か来週からだったかな?」

「え!もうすぐ会えるの!?」


思わず立ち上がってしまった。

そんな僕に神様は落ち着いてと椅子に座らせる。


来週、ついに小春ちゃんと結婚できる…。

結婚は小春ちゃんのお母さんとお父さんを見てるから知ってる。ずっと一緒にいて、子供作って家族になる事。


僕は未来に胸をときめかせた。


「小春ちゃんに会う前に約束してほしい事があるんだけど、いい?」

「なに?」


神様が僕を真面目な顔をしてみるから、僕も真剣に話を聞く体制になる。


「僕は偉い神様だけど、死んだ猫を生き返らせて、ましては人間にしてるなんてバレたら怒られちゃうんだ。だから他の人には猫だってバレないようにしてほしい。」

「うん、そのために人間の勉強をしてるんだ。」


大体の事は教えてもらったから大丈夫なはず。


「あともうひとつは、小春ちゃんがキミを好きにならないと結婚はしちゃだめだよ。」

「え、小春ちゃんは僕の事大好きだよ?」

「それは猫のキミでしょ?人間のキミは初めて会うんだから、まずは好きになってもらう所からだよ。」


「あと最後に、人間は18歳にならないと結婚できないよ。」


神様がにっこり笑って言う。

あれ、小春ちゃんはいま何歳なんだっけ。


「キミも小春ちゃんも今は15歳。あと3年待たなきゃだね。」


本当人間って面倒な事ばっかだ。


僕は大きな、とても大きなため息をついた。


「だからその3年の間はキミは人として過ごして、小春ちゃんと愛を育んでもらおうと。」

「それはなに?」


神様がじゃーん、とまた苦しそうな服を出してきた。


「制服だよ。キミには3年間小春ちゃんと同じ学校に通ってもらうよ。そこで青春して最後はゴールイン。あぁ!なんて素晴らしい計画!」


神様が何かいろいろ喋ってるけど、無視して中断していた食事を再開した。

まずは小春ちゃんに好きになってもらう所からか。


その日から一週間、完璧な人間になるために猛勉強をした。



そして小春ちゃんにあう日の当日。

いつものように起きて歯磨きをして、用意された制服を着る。

人間をいろいろ勉強して分かったけど、僕はイケメンって部類になるらしい。

神様にどうしてこの顔にしたのか聞いてみたら


「僕の若い頃の顔だよ。イケメンでしょ。」


と、教えてくれた。

一緒に生活してて分かったけど、あの神様は自分が大好きみたいだ。


用意してくれた雑誌を見て、髪をセットしてみる。

このワックスの匂いはどうも好きになれない。

匂いの強いものは猫の名残なのか少し苦手だ。


それでも小春ちゃんに好きになってもらうためになんでもする。


「よし、じゃあどこに行けば小春ちゃんに会えるの?」


慣れない靴を履いて神様に聞く。


「学校って所なんだけど、ちょっと待ってね。地図を送ろう。」

「ありがと。」


もらったスマートフォンのバイブが鳴る。

画面を開いて届いたメッセージには住所が書かれている。


「ところで、学校って言うのは朝早くから向かうものなんだけど大丈夫?」

「だから朝早く起きたんだけど?」


画面の時計を見ると10時の表示。

今日は9時に起きたし早起きできたと思っている。


「学校は8時にはついてなきゃいけないんだよ。」

「そういうの早く教えてよ!」



そうして僕は初日を遅刻した。

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