第6話 司教リアムス
──
ルリアは得意気にそう主張した。
「おいルリア、それって人を外見で判断してねえか?」
「あら分かってないわねアレス。内面は外見に現れるものよ」
「根拠はあるのかよ?」
「あの歪んだ考え、歪んだ言論、そして歪んだ顔よ!」
「…おいおい」
アレスとルリアの言葉を聞いていたクリフが、静かに話し出した。
「…ゴードン司祭は違うよ。司祭と死霊術師は対極にある存在なんだ。法力は死者を天へと導き、邪悪な存在を浄化する力。反対に
「つまり、司祭は死霊術師になれないって事かしら?」
「そうだね、仮になれたとしても法力は失われるはずだよ。法力は
普段口数の少ないクリフが饒舌に語ると、アレスは嬉しそうに口を開いた。
「さすがクリフ。博識だな」
「そんな事ないよアレス。…これくらいみんな知っている事だよ」
「いいや、現に俺やルリアは知らなかったんだからな!」
アレスの褒め言葉を素直に受け入れる事が出来ずに、クリフは下を向いた。しかしアレスは続けた。
「いいかクリフ、お前は剣術も法力も才能が無いなんて思っているかもしれないが、誰にでも才能って奴はあるんだよ。お前の知識や能力は、必ず多くの人の役に立つはずだ!」
「そんな、僕なんかがそんな事出来る訳ない…」
「いいや、お前は絶対に人の役に立つ!その事を忘れんなよ」
クリフは幼い事から、アレスの励ましには何度も救われて来た。ルリアは厳しい事しか言わないがクリフが困っている時は大抵助けてくれた。
クリフにとって2人は掛け替えのない親友だった。
「男同士の友情に口を挟んで悪いんだけど…」
「ん? 何だルリア、俺達が羨ましいのか?」
「いいえ全く。…誰かさんのせいで話が逸れたけど、ゴードンが死霊術師じゃないのは分かったわ。でもあいつが6聖剣の首を祭壇に置いた協力者の可能性は、まだあるって事よね?」
「…そ、そうだね。まぁ大神殿の関係者全員が容疑者ではあるし」
クリフの返答を聞いたルリアは、何かを決意したように再び話し出す。
「私決めたわ。近い内にゴードンの部屋に忍び込んで、証拠を掴むわ!」
「…おいおいルリア、そんな事したら尻叩きの件もあるし、自宅謹慎くらいじゃ済まないぞ」
「バレなきゃいいのよ、バレなきゃ!」
ルリアの無謀な計画に、再び苦笑いを浮かべる2人だった。
───
祭壇に6聖剣2人の首が置かれた翌日。
大聖堂の2階にあるリアムス司教の執務室では、彼とウォルグ聖騎士団長が話し込んでいた。
司教リアムス。
彼は齢60になるまで、この王国の行く末を案じ続けて来た。幾度となく隣国からは侵攻を受け、多くの人間が死んでいったのをその目で見ている。
彼が求めているのは信仰を根源とした強固な国家であり、長く続く平和そのものだった。そしてその為の聖騎士団であった。
その象徴とも言える6聖剣の2人が殺され、リアムスは事件の真相を解明し解決する事に思考を巡らせていた。
「…司教はこの件、どう思われますか?」
「そうだな、不審な点はあるがゴードンが協力者の可能性は薄いだろう。彼には動機が無い。…しかし僅でも可能性がある限り、放置する訳にもいくまい」
「おっしゃる通りかと。…しかしなぜ3年経った今、
ウォルグの問いかけにリアムスは沈黙し、やがて椅子から立ち上がると執務室の窓の方へと歩き出した。そして窓から見える曇り空を見上げる。
「…司教、やはり大聖堂の完成と大司教任命の儀が、何か関係あるのでしょうか?」
「おそらく無関係ではあるまい。…来月には任命の儀だと言うのに、まったく困ったものだな」
窓の外では修道女が庭の草花の手入れをしている。
それを眺めていた司教リアムスは、ゆっくりと振り返り騎士団長ウォルグに指示を出した。
「ウォルグ、聖騎士団を20名ほど集めなさい。ノブレス氏に会いにいこう」
「──は! 至急準備致します」
短く答えた騎士団長は、素早く執務室を出ていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。