第8話 国境の神隠し
あまりのことに気を失うように二度寝してしまった空燕は、戸を叩く音で目を覚ました。
「房殿、飯の時間です。飯を食ったら出発します」
戸を開けて気怠げにそう言った盛将軍は、空燕を目に入れるとぱっと目を輝かせた。
「猫!」
そのまま部屋に入ってきたかと思えば空燕の上で寝ていた、猫こと『真叶』を撫で回す。厳つい顔の眉が下がり、口元が緩んでいる。
真叶も満更でもなさそうに、盛将軍に腹を見せ、もっと撫でろというように身体をくねらせた。
空燕は見ようによっては微笑ましいその光景を腹の上に、絶望した。あぁ、夢ではなかった、と。
無心に真叶を撫で回していた盛将軍が我に返ったように緩んだ顔を引き締め、空燕に尋ねた。
「房殿、この猫は?昨日は居なかったでしょう?貴殿の猫か?」
いや違う、と応えようとして、空燕は真叶に鋭く爪を立てられた。空燕は痛みを堪えながら正直に応える。
「私の剣霊です!」
盛将軍は空燕の言葉に、驚きはしたが直ぐに受け入れたようだった。
「鎮魔師ともなると剣に霊が宿るのですね」
真叶を撫で回しながら言う盛将軍に、呆れ半分で空燕は問いかけた。
「盛将軍は怖くはないのですか?愛らしく見えますが、これは霊ですよ?」
盛将軍は空燕の言葉に手を止めると、空燕を見る。
「私はこの剣霊より、よほど恐ろしい魔を知っています」
そう言う盛将軍の目は、何も写していないかのように空虚だった。
湊国に怪異を起こしているのはそれほどに恐ろしい魔なのかと空燕が怯む中、二人は身形を整えて、朝食を摂った。
空燕は、恐る恐るこれから向かう地での怪異について尋ねる。
「ところで盛将軍、我々は湊国のどこに向かっているのでしょう?」
空燕の問に盛将軍は行き先を答えた。
「あぁ、申し訳ない。お伝えしていませんでしたね。私達が今向かっているのは、湊国の南の国境にある町、台です。台では一年前から神隠しが起こっているのです」
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