柵の中の燃ゆる日々

嶋 徹

第1話 20㎝くらい開く窓

 『仕事に意義など求めない。お金さえくれればあとは知ったことではない』


 男はそう考えていたが他人がどう考えるかも知ったことではなかった。


 荒木田は52歳になるがいまだに職を転々としていた。ギャンブル依存症で借金があった。それでもギャンブルは続けていた。あまり生きる価値のない人間であった。


 彼が今の仕事に付いて4ヶ月が経った。求人誌で自分で見付けた。嘘だらけの職務経歴で面接はクリアした。精神科病院の介護の仕事だった。


 精神科病院は山の中にあった。昔からある、私が子供のころからある古い病院だ。小学生のころその病院の娘が同級生だった。絵が上手だったのを覚えている。中学校から私立に行った。名はあゆむといったが内科医になったと職場で聞いた。まさに人生の勝者といえるだろう。それを聞いたときはうれしかった。

「あ~幸せになったんだなあ」てね。 

言っておくけど僕は根っからの悪人ではないからね!人の幸せを喜ぶことはできる。

ただ、思考能力が極端過ぎる時があるだけ……



 病院は3病棟に分かれていた。預かったカギだけでも5本になる。逃げ出す患者さんがいるので戸締まりは大事な仕事であった。また引き出しにもすべてカギが付いていた。


 トイレ掃除で洗剤を置きっ放したら凄い見幕叱られた。

「患者さんが飲んだらどうするの!」

と言う理由だが、

「そんなに死にたいのなら死なせてあげればいい」

と、僕は思うよ。同じような理由から窓は20㎝位しか開かない。飛び降りないようにね。そしてさらに柵が付いていた。


 病院入院となったらベルトなど紐状のものはすべて没収された。首を吊らないようにね。発狂した人は薬で抑えさせ、病棟で病気の加減を区分した。1番酷い1病棟の患者さんはあなたのイメージ通りかもしれない。



『何も変わらないよ、17年前から……』


 私は躁鬱病で精神病棟に入院したことがある。(それ以来躁鬱病であることを隠して生きてきた)

 勿論、今も通院して、膨大な薬を体に流し込んでいる。幸い現在、希死念慮ない。


『あ…仕事辞めたい』


 悪い癖がでてきたな。急がねば。


 OTと言ってレクリエーションが土曜日曜以外行われている。折り紙をしたり、カラオケしたり楽しそうで参加者も多い。位置もナースステーションから1番に遠い。


『このマスターキーさえあれば何でもできる』


 彼の頭の中では完璧にするべきことが決まっていた……。






 


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る