その5 勘違いさん。

手洗い場がどこか、ドア越しにイケモトを呼んで訊いた。



イケモト:「ドアに向かって左側にありませんか?」



え?

無かったから訊いてるんだ、と言いたいところを抑えて、左へ向いた。


洗面台と、タオルがあった。


あれ?

なんでだ?

さっきは見当たらなかったぞ。


ん~~~?


不思議な気持ちになったけれど、気が動転して見落としていただけかもしれない。

よくよく思い出してみたら、最初からあった、言われてみれば。

どうしても開3を押せない時は、タオルで拭くと...もうそんな事どうでもいいわ。


手洗いを済ませ、ドアを開く。

イケモトの姿がある。

なんだかずいぶん待たせた気がする。


しかし、この調子だと、ここの生活に慣れるまですんごく大変だ。


次はお風呂が試練になりそうだな...。

もういっそ、一緒に入ってもらおうかな、ハハハハ...。



イケ:「お風呂は何時頃入りますか?」



来た!

今それ考えてたところ!

私に心を読める超能力があるみたいな話だったけど、イケモトの方じゃないの、それ。



新井:「腰が痛いので...。」


イケ:「お風呂はやめておきますか。」


新井:「はい。タオルとお湯の入った洗面器があれば、自分で身体を拭きます。」


イケ:「では、用意します。」



ふう。

これならば、トイレのような事にはなるまい。


...でもなんか不安。



今日はあれやこれやと翻弄されまくったからなあ...タオルと洗面器にすらビビッてしまうよ。



...そして、イケモトが、ブツを持ってやって来た。



フツーだった。



イケ:「では、私はお風呂に入りますね。」



私も湯船に浸かりたいなあ。

腰さえ...この腰さえ無事なら...。

体を拭くためにちょっと動いただけで、痛い痛いアピールをしやがる。



うんざり。



しかし、自分で招いた結果である。

己のマヌケさを呪うしかない。



ノロい動きで体を拭き終わった私は、リュックからパジャマを取り出して着替えた。

ちょうどそのタイミングで、部屋のドアがノックされ「入ってもいいですか?」と声がした。

「はい」と答えると、パジャマに着替えたイケモトが、部屋の中に入り、つかつかと近付いて来た。



新井:「それで寝るんですか!?」



私はイケモトのパジャマを見て言った。

前面にゴルフボールサイズの金色の球体が、いくつもぶら下がっているというかなり奇抜なデザインだ。

ナイトキャップにも同じ球がいくつか付いている。



イケ:「これはですね、眠っている間に、このボールが魔力を引き寄せてくれるんだそうです。」


新井:「後ろにもその球が?」


イケ:「いえ、さすがにそれだと眠れません。」



イケモトはそう言って背中を見せた。

後ろ側は普通のパジャマだった。

そりゃそうだよな、と納得した。



イケ:「さて...」



何が「さて」なのか...イケモトは私の居るベッドに近付いて来る。

そして、右手を伸ばし、ベッドの横に右手を触れる。



え?え?

何?

まさか...まさか...。


全身に緊張が走った。

心臓の鼓動が急激に速くなる。


今の私は動けない。

腰がアレで何もどうにもできない。


ええ...そんな...。



動揺しまくる私の顔を、イケモトは無表情で見ている。

そして、左手をベッドの下にやり...



ベッドの側面を持ち上げるように開き、その下に体を滑り込ませた。


そこから上半身だけ出して...



イケ:「おやすみなさい。また明日お話しましょう。」



そう言って、ベッドの下に姿を消した。



...



....



...そ、そ...



そこで寝るんかい!!


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