その2 宿へ。

宿...寝泊りできる所に連れて行ってもらえるのはありがたい。

知らない所は嫌だとか、わがまま言ってる場合じゃない。

だってもう、まともに動けないからさ...。

私が元々予約していた宿には、落ち着いてからキャンセルの電話を入れないとね。



イケ:「着いてから全部お話ししますけど、今すぐに聞きたい事があったら遠慮なく質問してください。」



そう言われてもなあ...。

聞きたい事だらけだよ。

まあ、後から話してくれるって言うから、急がなくてもいいか。



新井:「たこ焼きの蛸が小さいと許せませんか?」


イケ:「え...?」



私の頭の中にあるうちの、最もくだらない質問をしてしまった。

腰の痛みに脳のリソースが殆ど割かれている今、これを訊いてどうしたいんだろう、意味あるんかな、と自分に呆れる。



イケ:「『たこ焼き』ですからね。主役ですよね。」



ああ、そう。

本当にどうでもいい答えをありがとうございました。



イケ:「なんでそれを?」



逆に質問された。

まあ当然そうだよね、意味不明だよね。

私自身、よくわからないから、これには答えられなかった。


その後、誰も何も喋らないまま、車は目的地の宿に着いた。



車から降りたらベッドまで歩かなければならないと覚悟していたところ、なんと、病院を出た時と同様、担架で運んでくれた。


罪の意識でここまでしてくれているのかな...。


そう考えた時、走って逃げて、ビビって倒れてこうなった自分のマヌケさに気付いた。

冷静に考えたら、結構、いや、結構どころじゃなく恥ずかしい人だな、私は。



宿のベッドに下ろされ、布団をかけられる。


ふっかふかだ...。


これクッソ高いんじゃね?

後から高額請求されるやつ?

それが目的の罠だったのか...。


はぁ...でもまあ、それはそれとしても、言わなければならない事がある、人として。



新井:「みなさん、ありがとうございました。」



痛みに耐えて身体を少し起こして、頭を下げた。

完全に起き上がるのは痛過ぎて無理だった。

身体が斜めでのお辞儀って、マナーとしてはどうなんだろう?



男声:「ああ、いやいや、いいんです、いいんです、無理しないでください。」


イケ:「楽な姿勢にしててください!元はと言えば、私が悪いんですから。」



「じゃあ我々はこれで」と言い、イケモトを除く男性達は、部屋から出て行った。

イケモトは、「後でお礼をさせてください」と返しつつ、男達を見送った。



寝ている私のベッドの横で、イケモトは椅子に座った。

お互いの顔が見える位置だ。



イケ:「順を追って話そうと思っています。お聞きいただけますか?」



そらもうアレですよ、聞くしかないでしょ。

他の選択肢は私には残されていない。



新井:「はい。」


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