その2 お寝坊さん。

仕事を終えて部屋に帰った私は、夕食の後、ぬるめのお湯を張ったバスタブにゆ~~~っくり浸かり、腰を中心にストレッチをしてからベッドに入った。

睡眠の質を上げるために、寝る態勢になったらスマートフォンをいじらないようにしている。

目が覚めたら朝から移動だ...普通列車だから予約はいらない...だけど早く起きた方がいい...のんびり...景色を...見て...美味しい...食べ...



...



....




.....





......






...ハッ!!



高々と昇った太陽の光が部屋を蒸し風呂にしていた。

暑さと、パジャマの内側をべっとりと濡らした汗の気持ち悪さで、私は目が覚めた。


眼鏡メガネめがね...うん、眠る前からかけたままだよね。

乱視入りでド近眼の私は、いつも眼鏡を密着装備した状態で寝てしまう。

ノー眼鏡での視界は、時空が歪んでんのかと思うぐらい世界がぼやけて見える。

何かあった時に、起きてすぐ見えないのは不安だから、外して眠る習慣が私には無い。


一方で、毎朝目が開くとすぐにスマートフォンを見るのは、完全に染み付いている習慣だ。

ズレた眼鏡の位置をクイッと修正し、その画面を見る。



12:01



うっわ、もう昼やし!!


寝過ぎた...。

こんなクソ暑いのに昼まで目が覚めないとか、どんな熟睡ぶりよ...。


まあまあ、それでも慌てる必要は無いのだよ、フフフ...。

荷物は既にリュックにまとめてあるのさ。

何か食べて、部屋のドアを開けてシュバッと旅立つ準備はできてるのよ。


出発するのが多少遅くなるぐらいは平気。

宿へのチェックイン予定時刻に間に合うように列車に乗ればそれでいいわけで。

散策の時間が減っちゃうのがちょっと惜しいってだけかな。


こういう事もありえるから、予定はキツキツに詰めない方が良いんだよね。

予定は緩く!臨機応変!何があっても楽しめる余裕を持つ、これが旅慣れた人間というものですよ...フフフ...っつっても、濡れ濡れパジャマは早く着替えよう...。


ボタンを外す自分の左手が目に入る。

その小指は、第二関節から先が外側を向いたまま動かない。

今はもうそれをいちいち気にしなくなったけれど、自分が「障害持ち」であるというのは事実であって、常に背負って生きていかなければならない。


右手の甲にも火傷跡がある。

やだやだ、自分の手を見る度、クソみたいな両親を思い出してしまう。

あ~、気にしなくなったと思ってたけど、やっぱり...心の底には残っちゃってるよねえ。



ふぅ...。



いいんだ、今、私は、そんな両親からも、仕事からも解放されて、7日間の自由な旅に出る。

とりあえず、「お腹が空いたら列車の中で食べよう」と買い置きしてた、五段盛りパクチーサンドを今食べてしまおうじゃないか。


うん、美味しい。


化粧品だとかカメムシの風味だとか言う人も存在するけれどだね、私にとってこれは、緑の草原が口の中に広がる美味なのだよ、なんで理解できないかなあ、そういう人達は。


さてさて、食べたらそろそろ列車に乗ろう。

今から乗れば、芦原高原神社には、ちょうど涼しい時間帯に着けるはず。

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