YOMELU!
砺波ユウ
【第1章】捨てられた女
その1 新井遥奏、30歳。
女声:「あ、おつかれさまでぇす。」
背後から聞こえて来る声は、私に向けられたものではない。
続けて、女同士のどうでもいい会話が始まったみたいだ。
生来の人見知りが、30歳になった今でも抜けきらない私は、挨拶すら苦手で、必要じゃないコミュニケーションは取らないようにしている。
あ~、腰が痛いわ...。
あとなんか、お尻が痒い...。
仕事の時間は殆ど、椅子に座り続けている。
そのせいか腰から背中にかけて、筋肉がガッチガチ。
この腰の痛みとの付き合いはもうずいぶん長い。
こうなった元々の原因は...ああ、やめよう、思い出したくないや。
お尻の方は...たぶん、蒸れたせいだ。
職員通用口のドアを目指す。
タッタッタッ、と、私の足が床を蹴る音は速くて小気味良い。
あのドアを、あのドアを抜けて、部屋に帰れば...
7連休だ!!!!
7日間、つまり1週間丸々の休み。
それは私にとって最適な期間。
3日程度では物足りないし、長過ぎると仕事の感覚が鈍るんだよね。
この7日間をどう過ごすかは、もう決めてる。
神社巡り!
観光地の有名な神社はもちろん、地元の人しか知らないようなマニアックな神社にも、面白そうなら行ってみようと考えている。
それに...
美味しい物も食べたい!!
そういう素敵なアレコレに巡り合うためには、ネットで調べるだけじゃダメ。
行先で、詳しい人から情報を仕入れないとね。
ホテルのフロントで訊いてもいいけれど、あれこれ聞くために自分から声を掛けるのはなんかヤだ。
最初は向こうから気さくに話し掛けてもらいたい。
だから私は、そういうタイプの宿を探した。
まず、ユースホステルやゲストハウス。
ホテルと違って、スタッフから積極的に案内してくれるパターンが多いからね。
でも、私は、スタッフと話すのはいいんだけど、他のゲストとワイワイするのは苦手。
ドミトリー形式の相部屋はなんだか落ち着かない。
寝る時は個室の方が良いんだよな...。
うーーーん...。
行きたい地域のユースホステルやゲストハウスが、自分のイメージと合わなかったり、そもそも無くて困った時は、民泊も調べる。
ただ、民泊は、経営者の方針やスタッフの人間性が大問題だ。
ユースホステルやゲストハウスにもそういうのはあるんだけど、民泊は振れ幅が超デカいからなあ。
違法なのも未だ多いし、性犯罪や殺人とかいう最悪の事例も少し前にネットニュースで流れてた。
だから慎重に選ばなくてはならない。
とはいえ...私は、自分にとって最適で、良質な宿泊施設を見抜く方法を知っている...。
学生時代の旅の経験...もあるが、元夫が宿泊業経営者だった、というのが大きい。
業界の内情とか、ちょっと詳しくなったもんね。
うーん、まあいいか。
7日間あるから、観光客が行かないような田舎にも行ってみたいんだけど...。
あまりに
それは不便過ぎる...多少の妥協も必要だね...。
なーんて、出発前日まで考えたけれど、宿泊場所だけはキッチリ押さえて、他はゆるーく動ける予定にした。
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