優しいだけでは……

 足を掴まれては登れない。あなたは木を降りて先に登るように言った。


 「え? いいの? ありがとう」


 その人は、あなたにお礼を言うと木を登り始めた。


 後ろから化け物が近づいてきている。はやく、はやくとあなたは焦った。


「門まで登れたよ!はやくおいでよ!」


 あなたは急いで木に登った。化け物が木の下に集まって来ている。門に手をかけようとしたとき、足を化け物に掴まれてしまった。下に引っ張られる! あなたは助けを求めた。


「ごめん! 私にはどうにもできないよ!」


 青ざめた表情でその人は門の外に降りた。


 あなたは見捨てられたショックで力が抜けてしまった。化け物に体を引っ張られる。首筋、腕、お腹。あらゆる場所を噛みつかれた。


「ごめんよ、ごめんよ」


 鉄格子の向こうでその人は謝っている。


 裏切られた。助けてくれなかった。あなたの心は絶望と恨みに支配される。


 ゆるさない。にんげん、ゆるさない。



 ★ END 悪霊の誕生 ★

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