朱色の月

のえたそ

第1話「犯人はあなたです」

 ──今日こそあいつを殺すんだ。

 2044年2月29日、閏年に僕、「斎藤徳之さいとうのりゆき」は決心する。

 壁に耳をつけると視界には窓から見える真っ黒な空が見え、耳からはなにも聞こえない。山の中にある旅館なため少し壁が薄く、耳をつけると結構聞こえるため、多分これは寝ているな。これでやっと殺す準備ができる。

 隣の部屋で寝ているのは「新城守しんじょうまもる」。34歳の若さで大手ゲーム会社【スターコントロール】、通称スタコンの社長であり、数々の賞を取っている子供からも大人気の人だ。まだ社長になって数年らしいが彼の会社で作ったゲームは必ず売れる。僕も大好きだ。

 

 じゃあなぜ彼を殺そうとしているか、それはこいつは中学の同級生でいじめられていたからだ。20年ほど前とはいえ俺はずっと恨んでいる。なんであいつが成功して社長、僕は失敗して落ちこぼれの正社員なんだ。思わず壁を思いっきり殴りそうになるが我慢我慢。

 僕は手袋をつけながらそっと自分の部屋のドアを開けて廊下に出る。隣の部屋までなるべく足音を立てずに近づき、彼の部屋のドアピッキングする。

 ドアは案外簡単に開いた。僕はすぐに足音を立てないように歩いて彼の目の前に立ち、闇市場から仕入れた青酸カリを持っているペットボトルの中に入れて冷蔵庫にある水とすり替える。彼は起きて必ず水を飲むタイプなのでこれで死ぬだろう。

 僕は不気味な笑顔を見せながらゆっくりと帰る。


「さぁ起きた時が楽しみだ。」


 僕はピッキングに使った針金を窓から投げて茂みに落として証拠隠滅する。これで完璧だ。僕はもちろん興奮して眠れなかったが、1時間ほど経ってやっと寝れた。




「…きて…起きてください!!」


 朝、僕は仲居さんに起こされて起きた。

 時刻は12時を少しすぎたくらい。もともとアラームをかけても熟睡しちゃうタイプだから、案の定あいつの苦しんだ声を聞けなかったらしい。

 僕はすぐに状況を理解して慌てたふりをする。


「ど、どうしたんですか!!」

「隣の部屋で人が倒れて…今警察と探偵が捜査しているところです!」


 少しパニック状態になっているため、僕は背中をさすり落ち着いてきたところ、そっと僕はたち自分の部屋のドアを開ける。


 部屋から出ると、一人の警察が僕を見てこちらに歩いてきた。僕は内心少し警戒する。


「おはようございます。」


 爽やかな笑顔に少し安心する。


「おはようございます。…隣の部屋は大丈夫なんですか?」


「ご存知でしたか。おっしゃる通り、あなたの隣の部屋で青酸カリによって毒殺が行われてしまい、ただいま捜査をしています。大変申し訳ないのですが、あなたの部屋を調べさせていただいてもよろしいですか?」


「あ、はい。部屋が少し散らかっていますがそれでもいいなら、、、」


「それでは確認させていただきますね。ご協力ありがとうございます。」


 警察は僕の部屋の中に入る。少し覗いてみると念入りに見ているようだ。僕は少し不安を抱えながら時間を潰す。

 


 それから、僕含め四人の人が集められた。

 僕、35歳公務員の「斎藤徳之」

 67歳男性、漫画家の「田中正樹たなかまさき

 22歳ギタリストの「村上紗奈むらかみさな

 41歳記者の「宮野静香みやののしずか


 みんな疑われていることを察しているようで動揺や不安が隠しきれず、不穏な空気が僕たちを包む。


「私たちがここに呼ばれてから1時間たっているんだけど、どういうこと?」


 腕を組みながら右手の人差し指を小刻みに動かす宮野静香はついに口を開く。もともと目つきの悪い目と少し低めの声は不機嫌さで余計悪化していて、すごく怖さを解き放っている。まぁ1時間経っているし仕方ないか、、


「まぁまぁ、僕たちが疑われていることは事実。気長に待ちましょうや。」


 座りながら優しい声でゆっくりと喋る田中正樹。とても貫禄を感じる。


「でも、、」


 宮野静香が言いかけたその時、ドアの開く音がしてドアに目線がドアに集まる。


「やぁやぁ皆様。すみませんね遅くなってしまって。」


 入ってきたのは白黒ツートンの髪をした男性。耳に数個のピアスがついていていかにもチャラそうな感じだ。


「誰、、?」


 少し怖がりながら小さな声で村上紗奈はそう言う。


「あぁ、自己紹介がまだでしたね。僕は東宮怜とうみやれい。ごく普通の探偵さ。」


 ごく普通の探偵、、と言うより海やカラオケにいるザ・陽キャ大学生って感じに見える。

 彼は続けて話を始める。


「集まってもらったのはまぁ察しているだろう。君たちはこの旅館にいた人の中で疑われている存在だ。」


 東宮怜のはっきりと伝えた言葉。やっぱり疑われているよな。部屋隣だし。


「死体の調査ではやはり毒殺だった。」

「自殺という可能性はないの?」


 東宮怜の言葉を聞いたあと、数秒間を開けて首をかしげながら村上紗奈は言う。確かに俺は指紋もつけてないし証拠隠滅したはず。自殺だと思われてもおかしくない。


「そう思うよな。」


 東宮怜は共感する。これはバレてないのでは、、?でも彼は言い切った。


「でもこれは他殺だ。」


 周りの空気が急にに冷たく、重くなった気がする。

 東宮怜はそっと右手をあげて指を刺す。


「犯人はあなたです。」



















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