契約

in鬱

黒い影

 僕は最近幽霊が見えるようになった。第六感というやつが目覚めたのだろう

 でも、僕の第六感は特定の幽霊しか見えない

 いつも僕の周りにいる黒い影。これが僕の見えてる幽霊だ。人型というわけではなく、モヤのような影だ

 最初は気の所為だと思っていたけれど、ずっと見えるし自分の家だけでなく外出した時にも見えるので幽霊だと気づいた

 怖いとは感じない。ただ、気味が悪い。ずっと側にいて監視しているかのようだ

 時折、息苦しくなるのもこの影のせいだ

 家族や友人には話していない。誰にも信じてもらえないと分かっている

 幽霊を信じる人は限られてる。周りに話したとしても戯言だと一蹴されるだけだ

 


 「ずっと見てるけど何?」


 「……………………」


 僕は時折、影に話しかける。でも、影は何も返事をしない

 だからいつも独り言で終わる。この影に何の目的があるのか、知りたいのだが答えてくれないので分からない

 気味が悪いのでお祓いに行こうかとも思っているのだが息苦しくなる以外、害がないのでお祓いに行っても有効なことをしてもらえないのでは無いかと勝手に思ってしまい行っていない



 ――――――

 

 

 「寝るから音を立てないでよ」


 「……………………」

 

 俺はベッドに入り、幽霊に強い口調で言った

 何も返さなくても聞こえてると勝手に思っているため話しかける

 影はうなずくこともせず部屋の扉の前に居座り続けている

 寝ていると物音がすぐ側でする。机に何かが当たる音、物が落ちる音、ラップ音。様々な音が夜に鳴り響くので寝ようにも寝られない

 音がする心当たりはこの影なので寝る前にこうやって忠告する



 バタン


 ゴンッ


 「うるさいな……静かにしてよ」


 物音がすぐ側でしたので目が覚めてしまった

 電気を消して真っ暗になっているにも関わらず、影がどこにいるかすぐに分かる

 影の黒の濃さが部屋の暗さよりも濃い。部屋の暗さはしばらくすれば慣れるが、影の暗さはじっと見ていても慣れる事が無い

 僕は扉の前に居座る影に強い口調で言った。大声を出すと家族を起こしてしまうので音量には気をつけて言った

 影はうなずくこともせずその場に居座り続ける。何度見ても気味が悪い

 僕は再び横になり目を閉じ、眠気がやってくるのを待つ



 ギィー

 

 コン


 「なんだよ……」


 眠気がやってきて寝れると思ったところでまた物音がして目が覚めた

 僕は少し怒った口調で影に言った。だが、影は何の反応も示さない

 せっかく寝られるところだったのに……ふざけんな

 ティッシュでも投げつけてやろう。そうすれば少しは怒りが収まるかもしれない

 僕は近くに置いてあるティッシュ箱から一枚取り丸めて影に投げつけた



 「えっ……?どこ行った?」


 僕が投げつけたティッシュは影にあたり後ろに扉に当たると思ったのだが、僕の予想は外れた

 影に当たった瞬間、ティッシュが消えた。吸い込まれるように消えた

 ブラックホールのようだ。影はそういう能力を持っているのか?

 気味が悪い……元々悪かったがさらに気味が悪さが増した

 こんな不気味な影早くどっか行ってくれないかな



 「もう音、立てないでよ」


 僕は影に強い口調で言った。不気味なことがあった後で声が若干震えてしまった

 影は何も返さず、その場に居座り続ける

 僕はまた横になり目を閉じる。しばらくすると眠気が襲ってきて意識が途絶えた



 ――――――



 「こんな成績で大学行けると思ってるの!?」


 「……まだ1年生だよ?将来のことはまだ考えなくても……」


 「何言ってるの!!大学は早いうちに決めて勉強しないと行きたいところに行けないわよ!!」


 「まだ行きたい大学が決まったわけでも無いし……」


 「なら、早く決めなさいよ!!モタモタしてると間に合わなくなるわよ!!」


 「モタモタって……だから僕、まだ1年生だし。これからでも間に合うって」


 ある平日の日、学校に帰ってきたら母親に呼び出された

 母親はこの前帰ってきた成績表を僕に見せつけてきた。1学期期末テストの学年順位が357人中256位。お世辞にも良い成績とは言えない。中間テストが良かったので今回も大丈夫だろうと高を括った結果だ

 今回のテストは出来が悪かった。そこまで勉強していなかったからだ

 正直、授業に追いつくので精一杯なのに予習、復習なんてやってる暇が無い。それに部活も忙しいし勉強をする時間が取れない

 テスト期間の1週間じゃ提示された範囲を全て勉強するのは無理だ

 確かにそんな成績で大学に行くのは無理かもしれない。でも、まだ高一の1学期だし慣れないところがあったというのは理解して欲しい

 それに大学を目指すなんて早すぎる。早いに越したことはないが、クラスメートだって大学受験の話は誰もしていない

 まだ1年生だ。将来のことは2年生になってからでも遅くないはずだ

 それなのに、何で母親は高圧的に行ってくるのだろう。母親は良い大学を出てる

 だから、息子である僕にも良い大学に行って欲しいのかもしれないが、行きたい大学を決めるのは僕だ。進路に口を出してこないで欲しい

 僕が大丈夫だと言っても母親は態度を変えず、高圧的に行ってくる。声が耳障りだ

 学校から帰ってきて疲れてるのに何で説教されなきゃならないんだ……

 こっちだって成績が悪かったのは反省してる。大学だって今は早いけど来年には真剣に取り組む

 この気持ちを伝えても母親は分かってくれない



 「出来の悪い息子を持つと大変ね……」


 「は?自分の価値観を押してくる親よりマシですけど」


 「母親に向かってその態度は何?」


 「子どもの将来に関して高圧的に言ってくる親より高を括ってヘマした息子の方がマシだよ」


 「あんた……!!よくそんなことが言えるわね!!私はあなたのことを思って言ってるの!!」

 

 「僕のことを思って言う人の態度じゃないけど」


 「何よ!!今まで育ててきたのは私よ!!?言う事が聞けないの!?」


 「僕は母親の人形じゃない!僕の将来は僕のものだ!あんたがどうこう言う資格は無い!!」


 母親は僕の将来のことになると人が変わる

 いつもは優しいのだが、将来のことになるとああだこうだ言ってくる。挙句の果てに言う事を聞けと言う

 これは中学生の時にもあった。中1から高校受験のために勉強しなさいとか中2になってこの高校行きなさいとか

 結局、僕の行きたい高校を選んだが、母親が指定した高校の推薦は取らされた。受験に失敗していれば母親が決めた高校に行くことになっていた

 僕は母親の人形ではない。僕の人生は僕が決める。誰の指図も受けない

 僕は母親の指示厨っぷりには懲り懲りしてる。おかげで病んでしまった

 常に将来についてああだこうだ言われると気が滅入る。モチベーションが低下するのだ

 自分が必死に勉強したのに母親の決めた大学に入ってしまうことになるのではと考えるとやる気が無くなる

 それじゃあ母親の人形になってしまうからだ。高校生にもなって母親に縛られるのは嫌だ

 束縛された人生を歩むくらいなら死んだ方がマシだ



 「もういいわ!!私の言う事が分からないなら出て行って頂戴!!」


 「あぁそうするよ!!こんな窮屈な家なんか出て行ってやるよ」


 僕は母親と決別し自分の部屋に向かい、今の気持ちをぶつけるように思いっきり扉を締めた

 バタン!!と大きな音が鳴った。自分でも音の大きさに驚いてしまった

 僕はベッドにダイブして白い天井をぼーっと眺めた

 本当はこの家が大好きだ。出て行きたくない

 でも、束縛されるなら自由になるため出ていくしか無い。父親にでも相談してみるか

 気が滅入る。こんなのが日常になったら嫌だ。全てを投げ出してしまいたい

 死んだ方がマシだと考えてしまう



 「オマエ、死ニタイ?」


 「えっ……?影が喋った?」


 白い天井をぼーっと眺めていると突如低い感情の無い声で喋りかけられた

 声のした方を見てみると影がいた

 影が喋ったのか?喋れたのか?



 「オマエ、コノママダト母オヤの言イナリ。オマエ二自由ハ無イ」


 「それ本当?」

 

 「未ライガ見エル我ガ言ッテル。嘘ハナイ」


 影はカタコトで喋りかけてくる。俺の質問にもちゃんと答えてる

 影と会話が出来ている。僕は今の状況を自然に受け入れている

 影の言ってることに嘘は感じられない。本当にコノままだと僕に自由はナイのだろう

 それは嫌だ。僕は僕が生きたいように生きたい

 でもそれが叶わないなら全てを投げ出してしまいたい

 ここで死ぬという選択肢を取るのはありかもしれない



 「自由が無いなら死にたい」


 「ナラ、交渉セイリツ」


 「え?」


 僕が影に向かって覚悟を決めた口調で言うと影は大きな口を開けた

 僕が飲み込まれてしまう程の大きさだ。口内は真っ白な歯が生え揃っており、血のように真っ赤だ

 これに飲み込まれるのか?それとも噛み砕かれるのか?

 想像しただけで鳥肌と震えが止まらない

 それに交渉成立ってなんだよ!



 「いやだぁぁぁぁ!!!!」


 「イタダキマス」


 僕は迫りくる巨大な口から逃れるようにベッドの上を這った

 壁にぶつかりこれ以上下がれなくなり、口が目前まで来た時、僕は本能で大声を上げた

 影がカタコトでそう言うと口をさらに大きく開け、僕を飲み込もうとする

 僕がさらに悲鳴の声を大きくしたが、僕の悲鳴が誰にも届くことは無く、僕は影に飲まれた

 


 ――――――

 


 「ハッ……!!!夢か……?」

 

 僕が目を覚ますと見慣れない天井が上にあった

 体を起こし、周りを見てみても見慣れない空間だ。近くに花瓶があり花が添えられていた

 服も患者が着るような服装をしている。入院でもしたのか?

 この格好と部屋の感じからここは病院の一室だと察した

 なんで病院にいるのか?前まで何をしてたのか?が思い出せない



 「なんで病院に?……えっ?」


 僕が辺りを見回していると窓に目がいった

 そして窓にいるものが信じられず、凝視した

 窓にはあの黒い影がいた。見間違いでも無い

 窓の向こうに大木が生えているわけでもない。影になるようなものは1つもない

 それなのに窓には影がある。直感があの黒い影だと言っている


 

 「どうしてここに?」


 

 「オマエ、死ニタイ?」


 僕は影の質問に自然と首を縦に振った

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